日本語OPI研究会

第42回定例会(2002.7.27) 講演レポート

文化能力基準はあり得るか?

(牧野成一トレーナー)

(2002年4月ウィスコンシン大学での講演の一部から)

 OPIの一番の欠陥は、文化基準が入っていないことである。そこで、2001年8月にNational Standards 注1)(以後NSと表記する)を日本に導入した。言語と文化をつなぐウチからソトへという考えかたが基になっている。NSでは文化を捉える際に、3つのKが三角形を形成すると考える。観点(Perspectives)、慣行(Practices)、完成品(Products)である。到達度指標として、「1.学習者は日本文化の慣行・慣習と観点・視点の関係を理解している証拠を出す。」「2.学習者は日本文化の完成品と観点・視点の関係を理解している証拠を出す。」が挙げられている。現時点では、証拠と考えられるものはパフォーマンスではなく内容(contents)である。

 具体例として、慣行の「添い寝」と観点の「甘え(の構造)」、完成品の「携帯電話」などが考えられる。レベルが上がるに連れて、身近な物から抽象的なものへ、即ちウチからソトへと内容が変化していく。

 日本語の指標例は英語で高校3年生の目標となっているものが大学4年生にそのまま転記されている。(注2)

 アメリカで使われている日本語教科書の文化ノートでは、言語以前の文化としてのサバイバルスキルについても言及しているが、関西外大の「げんき」は文化ノートが全くない。日本で使う教科書に文化ノートが必要ないという考え方はおかしいのではないか。

 ACTFLの基準として「話す」「読む」「書く」「聞く」と「文化」が同等に考えられて検討されたが反故になった経緯がある。NSも5つのCと言っているが、明確な文化基準はない。文化の場合は汎言語的基準は成り立たないと考えられている。

 どんなに上手な敬語を使っていてもポケットに手を入れていてはおかしい。言語よりノンバーバルな面が信用されるという現実がある。人間の文化行動について積極的に基準化する必要があると考えるので、文化基準試案を立ててみた。(注3)

注1) 5つのCで表されるNational Standardsの目標領域
   a Communication(言語伝達)
   b Cultures(文化)
   c Connections(連携:目標言語を使って母語話者に得られないような知識と連携する)
   d Comparisons(比較対照:目標言語を通して母語、母文化との比較対照をする)
   e Communities(地域社会:目標言語を使ってその言語を使用している地域社会と関わりを持つ)

注2) 学習者は社会、経済、政治の制度としての日本文化の触知不可能な完成品を同定し、討議し、分析し、これらの制度と日本文化の視点との関係を探索する。

注3)「タスク」「場面/内容」「正確さ:(文化/言語文化学)のきまり・待遇(文化/言語)行動・被理解度」について初級から超級までの基準を記述した表(牧野試案)

講演後、活発に質疑応答がなされた。
以下に主な質問と牧野先生の答えを簡単にまとめた。


Q1:文化基準試案、超級タスクの欄に「抽象的な認知を中心としたコト的な、したがってソト的なポストサバイバル能力。」、上級に「具体的なモノ的な、従ってウチ的なポストサバイバル能力。」とあるが、「コト」と「モノ」について説明してほしい。

A1: 「コト」は触れることのできない、例えば、会議場面の行動などで、日本語の場合は「甘えの構造」を理解して対応できるかなどを指す。「モノ」は触れることのできる、具体的な「食べる」場面の行動などを指す。

Q2:言語教育で言語能力には肯定的でも、日本人らしさには否定的な考えを持つ人もいるのではないか。

A2: ターゲットカルチャーに行ったときスイッチできるか、自分のアイデンティティを主張すると衝突が起きる場合にスイッチできる能力があるかをテストするものだ。あくまでもOPIを超えたところでの考え方である。例えば、「ほめる」や「けなす」などでは言語能力と文化能力の両方を見ていく必要がある。両者を分けるのはおかしいが、分けて考えることで、分けられない部分が見えてくるのではないか。

Q3:日本語は日本文化とだいたい対になっているとしても、英語の場合はアメリカ、イギリスをはじめ様々な文化圏で話されており、言語を文化能力基準と結びつけるのは難しいのではないか。

A3: 英語を話す人々の中にも共通の文化行動(ある考え方を示唆するもの)があると考える。

  

Q4:OPIはタスクテストと言われるが、牧野先生の考え方では「場面がタスクを決めている」のではないか。

A4: 日本の「お中元」という文化行動、アメリカの「クリスマス」や「バレンタイン」については、文化的タスク行動と考えている。  

Q5:年齢や地域によって文化は違うと思う。どこの文化を基準にするのか。

A5: 言語上の「方言」の問題と似ている。ステレオタイプではなく、標準的なものを考える。例えば、日本の場合「玄関で、靴を脱ぐ」は標準と言えるだろう。文化は変化するし、地域によって違うが、東京中心でなく広い目でと言った場合、沖縄の文化を基準にできるか。超級の場合は、東京文化と大阪文化など、少なくとももう一つの文化を理解していることが必要であろう。