日本語OPI研究会

第44回定例会(2002.12.23) 講演レポート

「まあ」はどうして上級話者のマーカーの一つでありえるのか

牧野成一トレーナー

 「まあ」 自体の先行研究はOkada (1995) ("A Discourse function of MAA 'well' in Japanese spontaneous conversation" )ぐらいで、ほとんどないし、教科書で 「まあ」を説明しているものもないようだが、基本的にはなんらかのCompromise (妥協)を表すマーカーと考えられてきた。OPIの判定に客観性を持たせるためには、複数のマーカーが必要であるので、その一つとして「まあ」をとりあげた。

  上村隆一氏他による「インタビュー形式による日本語会話データベース」 のデータによると、「まあ」は集中して上級と超級に出てきている。それはなぜか?

  「まあ」は独り言に出ないわけではないが、「聞き手中心性」が強い。つまり、意見を聞かれて、うまく答えるような場合に出てきやすい。書き言葉では出てこないし、読む会話と言われている「座談会」ではもとにはあったはずなのだが、文面では編集削除されている。

「まあ」のはたらきは「命題に色をつける」ということである。では、それはどういう色なのか?

母語話者によるOPIコーパス中に現れる「まあ」の用法を分類分析してみた。 (詳しい例はプリントを参照のこと。)

・ 自信がないとき:「まあ、よくわかりません」
・ はっきりしない、どっちつかずのとき:「まあ、どちらかと言えば、~です」
・ 推測:「まあ、~でしょう{ね/けれども}」
・ 一時的にとりあえず結論を出すとき:「そのま、~といいますか、~といいますか、・・」
・ はっきり言うことを避けるとき:「ま、そうですね、はい」
・ 条件つき:「まあ、adjことはadjですが」
・ ポライトネス:陳述を和らげるとき:「まあ、行かせていただきたいんですけれども・・」
 *敬語が共起
・ 例を全部ではなくあげるとき:「まあ、たとえば、~」
・ 数量を漠然と言うとき:「まあ少し、希望があると思いますけれども」
・ 言いにくい事を言うとき:「まあその彼(夫)のことですからまあ、あのー、まあ、・・」
・ 100%は賛成していないとき:「まあ、そうですね」

 その他、インタビューワーの「まあ」の使い方として、親になったような調子で:「まあ、~てください」などがある。

 このように「まあ」は基本的には、はっきりものを言わないときに、自分の発話を客観的に見て相手に気を配りつつ使うので、共起関係を調べるとおもしろい。

 また、音象徴との関係にも注目される。今まで、鼻音と口蓋音の対立として、「のvsこと」「のでvsから」、「のにvsけれど」、「の vs. から」などの例についてを論じたことがある。(詳しくは『ウチとソトの言語文化学』14章 アルク、1996を参照。)「の」は久野(1973)では統語分析から直接的、「こと」は間接的とも言われているが、たとえば「泳ぐのが好き」「泳ぐことが好き」を比べてみると、鼻音の方が軟らかく、「泳ぐのが大好き」とは言えるが、「泳ぐことが大好き」はなじまないことからも、身近なものや感情的な表現には鼻音が使われる。「まあ」が鼻音であることも偶然ではなく、命題に色をつけながら「相手を引き込む」機能を持っていることが推測される。

 上級を示す他のマーカーとして「受身」、「複合動詞」などが考えられるが、「まあ」も初・中級では使いにくいことが言えるだろう。「まあ」は上級だから出るのではなく、出たら上級と考えてほしい。

先生の、「他のマーカーは?」と言う質問から、質疑に入って行った形となった。

Q:「こ・そ・あ・ど」特に、文脈指示の一人語りの「あ」の使用は上級マーカーになるのではないか。
A:それは考えられる。これらを確かめるために更なるコーパスのデータバンクの必要性を感じる。

Q:フィラーとの境界は?副詞的な役割との境界は?
A:言語学では、今はその境界はわからない、連続的に捕らえるべきではないか。むしろ、OPIのレベルを志向するマーカーというように理解したらどうだろうか。

Q:「ま、いいか」などのように独白でも使うのでは?
A:そういうことはあるかもしれない。しかし、このような使い方は非常に希だろう。基本的には相手志向のマーカーではないか。

Q:男女の使い方の差はどうなのか?(「ま、ひとつ」「ま、いっぱい」等の使用)
A:それについては、調べていない。性差があるとしたら、それはそれで面白い問題だ。

Q:中級で一人多用している学習者がいるがその原因は?
A:中級で使用したものについては多用される「ね」のような誤用例だった。