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第3回OPI国際シンポジウム:プリンストン【発表要旨2】

中級レベル以下の発話能力を大規模に測る

庄司惠雄

 現在、野口裕之、春原憲一郎両氏との共同研究で技術研修生のための日本語発話能力テストを開発しているが、この発表ではそのパイロット・テストの結果を報告した。

  日本語能力を測定する試験は、紙筆テストではいまのところ日本語能力試験が最も信頼性が高いと思われる。しかし口頭能力試験に関しては、人的・時間的資源を大量に消費することから、よい手だてが見つかっていない。よしんば時間と人手があるとしても、発話標本抽出手続きとその判定過程における2段階の測定誤差は防ぎようもなく、実用性どころか信頼性も妥当性も疑わしい。

  日本語能力試験を運用している国際交流基金においてもこの問題はとうの昔から大きな課題になっていて、ETSなんかに比べたらお話にならないほど微々たる予算(失礼!)ながら、少しずつ研究が進められてきた。そこではひとまず1・2級レベルの学習者のニーズから応えていこうというのが基本的スタンスになっている。低いレベルの学習者に対してパーフォーマンス・テストは設計しにくいからである。

  ところがどっこい、3・4級レベルの学習者の口頭能力を測定する必要が出てきたのである。技術研修生がそれである。技術研修自体は1・2級ほどの日本語力はひとまずなくても可能である。しかしゼロでいいかというとそうでもない。しかも、研修生たちのコミュニケーション能力習得状況をしっかりあとづけておかないと、実地研修前に実施している初期日本語研修のデザインができない。そんなわけで、このような中級以下の口頭能力の実態を把握し、分析するためのテストが必要になった。 

  このテストは庄司ほか(2003及び2004)を土台にしている。売りは二つ。一つは発話標本抽出過程における測定誤差を最小化すること、いま一つは判定段階における測定誤差を最小化すること、である。大規模テストでは第一の誤差解消が最大の難関である。どれほど訓練しても生身の試験官が個々に面接している限り、面接者の数だけ妥当性と信頼性が落ちることを防げない。これを克服するには、生身の面接者でなく、機械的に発話を抽出するしか道がない。 

  次に、どれほど妥当な標本がとれても、判定者のバイアスが測定誤差の主要因になる。この対策としては、判定方法を簡素化するしかないという、わかりきったような結論に達した。判定に熟練を要しない方法を編み出せばよい。とは言い条、これがなかなか難しい。そこで考えついたのが、受験者の言及事項を数え上げることによってタスク達成度の半分を見ようというアイデアである。筆者の言い出した「チェックリスト方式」とは、この程度のことにすぎない。

  本実施ではコンピュータによる発題を計画していたが、パイロット・テストには間に合わず、SOPI式にオーディオ・テープから出題することになった。中級以下という受験者のレベルに照らして、初期日本語研修で導入されている二つの技能(@質問への受け答え、A道順案内)及びその後の自学自習によって習得しているかもしれない二つの技能(B情景描写、C所与のテーマに関する自由発話)の計4類で課題を構成した。15分間のテストで最大8分程度の標本が得られるよう設計した。

  判定は言及事項数のチェックを主体にして、それに基準を参照して「わかりやすさ」など発話の質を判定する評価を加えた。1標本に教員2名を配し、6組の評価者が計29名を判定した結果、平均約.8という比較的高い評定者間信頼性係数が得られた。しかし、日本語研修にシラバス化されていない技能を含む後半の課題では床面効果が生じた。低い能力の受験者に高いレベルの課題を与えつつ、かつ受験者を差別化するというきわめて難しいハードルが今後の課題になっている。

  注)参考文献については、紙面の関係上省略させて頂きます。

***** 庄司惠雄さんのプリンストン日本語教育フォーラム印象記 *****

  雑踏のニューヨークを逃れペン・ステーションからNJトランジットに乗り一路プリンストンへ向かう。ハドソン川をトンネルで潜ると車窓風景は一変し、南下するにつれ緑濃くなる。プリンストン駅から大学駅へは2両編成の電車でたったひと駅だった。切符を集めにきた車掌のおばさんがきょうはいい天気でよかったねぇと声をかけていった。

  キャンパスは公園そのもので、市民や旅人に惜し気なく美しい風景を提供している。フォーラムはそのど真ん中のフリストセンターで行われ、米国内外から100名以上ではと思われるOPI関係者を集めていた。 

  初日は二つのデモで始まった。インタビュー方法に学ぶところが多かった。続くビデオに収録されたOPIは今後レベルの判定方法を再考するうえで多くの示唆を含んでいた。しんがりスウェンダー氏の講演では超級議論が進みつつあることを知った。

  2日目は冒頭にリスキン氏の講演があり、OPIを批判的に論じることを忘れない学術的な態度が参考になった。そのあと口頭発表が14本もあった。
将来的には来場者に占めるOPI関係者の比重がもっと下がり、新鮮かつ多角的な視点からOPIが取り上げられるようなフォーラムになればいい。生みの親である牧野成一先生もそう願っておられるにちがいない。