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第3回OPI国際シンポジウム:プリンストン【報告文】

研究発表に関する報告

神山光子

 シンポジウム第二日目の午前中には、日本と米国から、合計3組の研究発表が行われた。

  まず初めは、奥野由紀子氏、三井久美子氏、松島弘枝氏、山田あずさ氏、山本真知子氏 (関西OPI研究会縦断研究班)による「縦断的な発話データに基づく『節』の分析―上級に現れる『ケド』に着目してー」で、学習者はどのように結束性や一貫性を強化しながら話す力を伸ばすのかという課題を、「節」という文法単位を用いて、縦断的に観察した。その結果得られた「ケド節」の機能、節数、類似トピックの縦断的比較、個人に見られる特徴的なケド使用を分析し、この「ケド節」の増加は、段落形成を助け、円滑なコミュニケーションへ寄与することにより、発話の向上に貢献しているとの報告がなされた。

  次のハドソン遠藤睦子氏(ミシガン州立大学)は、「会話における“不必要な”要素を教える必要」で、「自然な会話」に多くみられる、言い淀み、言いなおし、繰り返し、フィラー、ヘッジ、省略(格助詞・語句)、「ね」などの終助詞や間投詞・間投助詞、「−て」などで終わる不完全文、倒置文、縮約形を含む発音変化、などは“不必要”ではなく、あいづちを含むこれらの適度な使用が、学習者の会話が上手だとみられる重要な要素であり、今後これらを授業に積極的、体系的に取り入れる必要性を強調し、実際に学習者が作成した会話文4例が示された。

  最後の筒井通雄氏(ワシントン大学)は「効果的な遅延型フィードバックのためのエラー分析」で、一般的に行われている遅延型FBをより効果的にするためには学習者のエラーの第二言語習得論的分析も必要であるとし、エラーを、@発話中に気付く Aビデオで見て気付く B他者にビデオで指摘されて気付く C指摘されても分からない D正しく言う知識が無いことを自覚していて間違いを予知していて起こす、の5タイプに分類した。そして各タイプ別のFBや自己評価表の使用が、教師と学習者の両者にメリットをもたらすことが実践で明らかになったと発表した。

  午後の部は、パラレルセッションA・Bで発表が行われた。

セッションA:

・近藤純子氏(ミシガン大学)は「OPIにおけるフィラー使用と理由を表す表現のレベル別特徴」で、各レベルの学習者および母語話者のOPIデータの比較を通し、@初・中級話者が繰り返すフィラーは2〜3種で上・超級では7〜9種に及び、上級以上は種類も増す A初級の「あの(−)」「あ(−)」「んー」、中級の「えー(っと)」上級の「その」「そうですねえ」「まあ」「なんという」、超級の「なんていうんですか」、母語話者の「こう」は各レベルの特徴的なフィラー B同種のフィラーでも下位と上位レベルで使われ方が違う Cレベルが母語話者に近づくにつれlanguage production-basedフィラーの頻度は低くなり、socially motivatedフィラーの頻度が高くなる D理由の表現は、初・中級は主に「から」「だから」が使用され、上級は「ので」が、超級では「もので」「ものですから」なども加わる Eフィラーと同様学習者のレベルが上がるとその種類も増す、との特徴を発表した。

・荻原稚佳子(早稲田大学)、齊藤眞理子(文化女子大学)、増田眞佐子(中央大学)、伊藤とく美(横浜簿記テクノビジネス専門学校)「上級話者への会話教育の指針−OPIレベル別特徴の分析から−」  *要旨掲載

・山根智恵氏(山陽学園大学)「高校の交換留学生における異文化理解と言語習得―OPIの談話分析を中心にー」では、2名の女子高校生の日本語習得を、@発話内容 A発話の要素(相づち、フィラー、前置き表現、終助詞、待遇表現など) B作文 で分析し、@日本文化への興味が、異文化理解と受容を容易にした A異文化適応が会話力のアップ(OPIで3段階)と日本語能力試験3級合格につながった B婉曲表現や終助詞が使え、対人関係に関わるフィラーは増加したが、終助詞「よ」、待遇表現などは正確とは言えず、相づちも種類は少なかった、との結果を発表した。

・奥村圭子氏(山梨大学)「初級日本語学習者が使用する達成ストラテジーの段階的変化」は残念ながら不参加であった。

・上村隆一氏、水本光美氏、池田隆介氏(北九州市立大学)「日本語OPI標準モデルの構築に関する研究プロジェクトについて」では、インタビュー実験データの話者能力別特徴の標準化により、主観による判定誤差を是正し、より客観的な判定基準確立のために、@複数のOPI試験官による日本語非母語話者へのOPI実験と、会話能力レベルの予備判定 AOPI実験時における画像音声データのデジタル収録と非圧縮ファイリング BDVDメディアによるビデオライブラリー作成と音声書き起こし作業、の手順に従ってなされているパイロット・コーパスの構築作業過程が、書き起こしテキストと動画コーパスサンプルのデモにより提示された。

・浜田昌子氏、田中ゆき乃氏、Dave Segal氏(ヴィラノヴァ大学)「アメリカ人高校生を対象にしたバーチュアルオンラインによる口頭テスト:ケーススタディ」では、シンクロナス・バーチュアル・オンラインによる全く新たな外国語教育の利点として、@コミュニケーション重視の活気ある学習環境の提供 A地理的空間を越え、日本人(または教師)と直接交流可能な場の提供 B日本人とのコミュニケーションを通して文化理解を深める、などを挙げ、実際にこのプログラムで一年間日本語を学習した高校生を対象に、@従来の口頭面接試験とオンライン上での口頭試験による、学習者の発話や言語活動にみられる違い A双方の口頭試験に対する受験者の反応と意見の違いを視点として得られた結果が発表された。

・リプトン岡野久代氏(スタンフォード大学)は「Introducing Conversational Narrative to the First-Year Students」で、学習者の中級(文レベル)から上級(段落レベル)への壁は厚いが、「〜んです」「けど」「よ」「ね」などは一年生レベルで習得されていることに注目し、実験的に初級-上から中級-下レベルに口頭ナラティブを教室活動に取り入れ、「うんです」「んですね」「〜ですよ」「〜んですけど」が持つDiscourse Markerを明示的に紹介した結果、初級後半の学習者では準備なしの口頭ナラティブは無理であるが、ディスコースマーカーの機能を概念的に理解し、使用頻度も増したと報告した。

セッションB:

・庄司恵雄氏(お茶の水女子大学)、野口裕之氏(名古屋大学)、春原憲一郎氏(海外技術者研修協会)「チェック・リスト評価法による大規模口頭能力試験の可能性」  *要旨掲載

・広谷真紀氏(パデュー大学)「CMCの長期使用による日本語学習者のOral Proficiencyの伸びの検証」では、日本語(4学期目)履修の36名の大学生を3つの条件下(チャット、掲示板、Face-to-face)のグループに分け、さらに3〜4人のサブグループに分けて、35分のグループディスカッションを週一回、計10回させ、会話の伸びを8つの指標(タスク達成・情報量・語彙の豊富さ・文の複雑さ・流暢さ・発音・正確さ・話のまとまりと結束性)を用いて主観的に評価した結果が発表された。(学生たちには学期の始めと終わりに会話能力テストを実施した。)

・岡まゆみ氏(ミシガン大学)は「メタファーはOPIレベル判定のマーカーとなりうるか」で、常套的メタファーを慣用的表現と概念的表現に分け、二つのメタファーの表れ方を、各レベル別のメタファーの出現状況、頻度数、誤使用などを基に比較検討した結果、談話における語彙の豊かさを決定するのは、単に抽象的な表現や慣用句の数だけではなく、基本語句をいかにメタファー的に発展させられるかにもあることが判明したとし、これを「比喩力」と命名した。そしてこの「比喩力」の測定は、OPIレベル判断の具体的なマーカーとなることを提言した。

・榊原芳美氏、荻原章子氏(ミシガン州立大学)「会話上達のための自己評価プロジェクト」 では、日本語母語話者(NJS)との会話を、教師作成の評価表の言語面と心理面を問う10項目で自己評価するプロジェクトの、@学習者の自己評価は妥当か A学習者は達成感を得ているか、という二点を調査し、@については、会話を聞いたNJS評価の平均点が高かったものと、学習者が最高点をつけたものが一致したことで信頼でき、Aについても言語面と心理面の点数を比較し、心理面での評価が高い自己評価の大きな要因になっていると言え、結果この種のプロジェクトが、言語面、心理面において学習者の会話上達に寄与し得ると述べられた。

・松本-スタート洋子氏(エディンバラ大学)「ダイアローグ・モデルによるOPIの会話構造分析」では、OPIの会話が、会話の機能、「ゲーム」と呼ばれる発話の集合体、発話者の意図などを含む発話の上位レベルからなる「会話の流れ」に焦点をあて、会話の構造分析を行うアプローチに関心を持つConversational Game Theory(CGT)理論の枠組みで、どのように捉えられ、その会話構造の特性がどのように分析できるかについて論じられ、さらに汎語的な方法論としての可能性を検討し、他言語OPIの先行研究によって論じられてきた「OPIは自然な日常会話なのか」という問題が考察された。

・根元菜穂子氏(マウントホリヨーク大学)「A Pragmatic Approach to んです:Merits of Incorporating “Storytelling”in Elementary Japanese」では、ハワイ大学で行われたワークショップでの「んです」の導入方法を、大学の初級日本語に取り入れた試みが発表された。@ 先週末、家に帰りました。「ます体」とA 先週末、家に帰ったんです。「んです体」の違いを説明するのに、「んです体」をSmall talk / Storytellingのようなextended tellingに用いられるdiscourse marker(Yosmini2001) とし、B 先週末、家に帰りました。レストランへ行きました。友達に会いました。をlist of eventと呼び、C 先週末、久しぶりに家に帰ったんですよ。それで、家の近くのレストランへ晩御飯を食べに行ったんですね。そしたら、高校のときの友達に会ったんですよ。のような、extended tellingへの移行練習を通した結果をビデオと共に報告した。

・相田幸枝(テキサス大学オースティン校)「初級日本語学習者によるストーリーテリング」は、初級日本語2(2学期目)の55人の学生がプラグマティックスのインストラクションを受け、思い出に残る経験を第三者に語って聞かせるという上級レベルのタスクに挑戦した結果、「~ですよ」「~ですね」「~ですけど」などのdiscourse markerや「~て~て」の文型、「それから」「そのあと」「そして」などの接続詞の使い方もある程度習得できたこと、さらに終了後の学生たちのこのプロジェクトが言語技術向上にもたらした効果の自己評価・感想・改善されるべき点などの意見のまとめを発表した。

以上合計16もの貴重な研究発表がなされ、またそれぞれの発表に対する質疑応答も活発に交わされた非常に有意義なシンポジウムであった。