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第4回OPI国際シンポジウム:ベルリン 【報告2】

パネルディスカッション
「ACTFL日本語OPIと欧州CEF準拠口頭能力測定法の接点を探る
―米スタンダード、欧州スタンダード、日本語教育スタンダード―」

庄司 惠雄

 はじめに、シンポジウム主催者である山田ボヒネック頼子氏よりあいさつがあった。EUにおける外国語教育の趨勢と日本語教育の近況を踏まえて、パネルディスカッションのテーマを標記のようなタイトルとしたねらいについて説明されたものである。

  このあと、嶋田和子トレーナーの司会のもと、以下のプログラムに沿ってパネルディスカッションに入った。

プログラム

コーディネータ:山田ボヒネック頼子(ベルリン自由大学)

パネリスト:

(1)カール・フォルスグラフ(オレゴン大学)
「口頭能力のオンラインでの評価:STAMPテストの開発、実施経験から学んだこと」

(2)庄司惠雄(お茶の水女子大学)
「管見:CEFRを通じて展望する新たな日本語能力試験(仮)の可能性 ―JF中上級 発話テスト開発プロジェクトからAOTS技術研修生中級発話テスト開発 プロジェクトに至る経過を踏まえて―」

(3)野口裕之(名古屋大学)
「日本語能力試験における言語能力の記述と得点解釈基準の設定」

(4)鎌田 修(南山大学)
「接触場面における言語活動遂行能力」

(5)デマイオ・シルバーナ(ナポリ国立大学)
「欧州CEFRと口頭能力測定試験:ノンネイティブ日本語教師の一考察」

司 会:嶋田和子(イーストウエスト日本語学校)
コメンテータ:伊東祐郎(東京外国語大学)

 カール・フォルスグラフ氏は、オレゴン大学CASLSにおいて氏らが開発したネット・ベースの外国語テストSTAMP(Standards-based Measurement of Proficiency)を紹介した。

  STAMPは1999年から開発が開始され、読解・聴解・作文の3技能の測定が可能になっていたが、州政府の要請を受けて、2004年からは口頭能力についても実用が可能になった。OPIでは実現できなかった低コスト、多数受験者処理、低料金化、タスクの多様化、フィードバックの高速化、読み書き能力の同時測定が可能になったという長所がある半面、対象年齢が13歳以上でレベルがIntermediate-Highまでに限定されること、タスクがpresentational modeであること、妥当性に未検証の部分があること、などの短所があるという認識が報告された。ただ、タスク画面に同時に評価表を表示していること、聴解テストの後に口頭テストを実施することにより適正レベルが用意できること、採点者の養成・訓練のシステムを兼ね備えていること、迅速なデータ処理による機関内・機関間比較が容易になったことなど、他のテストにはない強みが強調された。

  庄司は、JFプロジェクトにおいて開発した上級向け発話テストとAOTSプロジェクトにおいて開発した初中級向け発話テストを比較しながら、CEFRと対照した共通点と相違点を示した。また、目下進行中の日本語能力試験の見直し作業において予想される諸課題、新たに設けられる場合の口頭能力試験の位置づけやあり方に関する提言を行った。

  野口氏からは、新たな日本語能力試験では、現行試験にない得点解釈基準をCDS(Can-do Statements)によって表示することになっており、CEFRとの対応を意識して再検討の作業が進められていることが報告された。日本語CDSとCEFRは、「聞く」「書く」では困難度の順序性がほぼ対応するものの、「読む」では対応しない部分があるという。この非対応性が日本語の重要な構成要素である漢字に起因すると見られるため、過去の問題を因子分析した結果「漢字がもたらす情報を検索処理する能力」と「文脈を活用して理解を構築する能力」の2因子が抽出され、問題項目が「文字」「読解・語彙・文法」「聴解」の三つのクラスターを形成していることが明らかになったことが報告された。このうち、「漢字がもたらす情報を検索処理する能力」では、文字の能力を単なる形態的知識として測定しているのではなく、部首・偏・旁などの字形、音、意味、語彙性、文法性、その他の情報を利用して適切な漢字及び語彙を検索するという高度な情報処理過程を測定していることの反映という解釈も報告された。

  また、新たに口頭能力試験が加えられる場合には、先行研究に照らして日本語の「話」技能が「聴」技能との相関が高いことから、ACTFL能力基準の「話す」に加えて「聞く」の基準を総合した試験として位置付けることにしてはどうかという提案があった。

  鎌田 修氏は、各所で採取した外国人学習者の日本人との接触場面の画像をもとに、日本語学習者を「日本語話者」と位置づけた上、OPIでは測定不可能な学習者の言語行動を興味深く分析した。

  また、氏の考案になる「言語活動のプール」に、新たに「活動例と評価原理」を加え、口頭能力テストを接触場面としてとらえるという視点が提案されるともに、OPIでは評価できない、さまざまな接触場面で観察される言語能力を測定することも、OPIを専門とする者には今後の課題になるのではないかという問題が提起された。

  デマイオ・シルバーナ氏からは、自身の日本留学を故国の大学教育に生かしている実践を踏まえて、日本国外で学ぶ日本語学習者にとっての日本語能力試験の意味、日本語能力試験のあり方と今後に向けた要望などが報告された。

  まず、ECFRの口頭発話能力記述に触れ、レベルB1以下とB2以上の間に大きなギャップがあること、それはいわば前者が自国内で学ぶ学習者、後者が目標言語使用国に留学経験のある学習者に該当する、とし、ヨーロッパでは、前者のための口頭能力試験の開発が先ではないかと提案した。また、日本語能力試験に口頭能力を測定する部門は不可欠だが、完璧を求めて実施が遅れるよりも、改訂を重ねることを前提に早い時期の実施が望ましい、とも述べた。

  パネルの後半は会場参加者とのディスカッションにあてられた。各パネラーの発表に対する個々の事柄に対する質疑に始まり、接触場面をテスト場面に転換することをめぐる意見交換、日本語能力試験の見直し作業や口頭能力測定部門の新設をめぐる質疑・意見交換が行われたほか、言語能力観、外国語教授理論などの根本的な問題に関する密度の濃い議論がやり取りされ、時間が不足するほどの盛況で、足りない時間を効果的に配分した司会者の腕前が光る終幕となった。めでたしめでたし。

(庄司惠雄記)