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OPIを授業に生かす 第2回

<解説・理論編 2>

評価基準を考える

齊藤 眞理子

 この連載では、学習者の口頭表現能力を総合的に評価するOPI(Oral Proficiency Interview)について、さまざまな角度から解説していきます。
 今月のテーマは「評価基準」。学習者の発話サンプルを交えながら、レベル判定の裏づけとなる要素などを紹介します。

 

1) 評価基準概観

 ACTFL-OPIの判定は全体的・統合的になされるものであり、ある被験者が、目標言語文化の中でどの程度コミュニケーション上の機能が遂行できるか、ということが最も重要な判断の目安となる。レベルの判定は、インタビューで抽出された発話サンプルをACTFLの評価基準に照らし合わせる形で行われる。

 評価の観点として挙げられる4つのカテゴリーは、同等の比重を持つものではなく、(1)機能/総合的なタスク遂行能力が、(2)社会的場面/話題領域、(3)談話の型、(4)正確さにより支えられていると捉えられる。(4)の正確さは、さらに文法・語彙・発音・社会言語学的能力・語用論的能力・流暢さの6つに分かれており、日本語教師がふつう注目する文法の正確さは全体の中の一部分ということになる。

 評価基準には、初・中・上・超級の4つの主要レベルがあり、ある主要レベルと判定されるためには、そのレベルに必須とされる機能/総合的なタスク遂行能力を一貫して、かつ安定した形で示さなければならない。以下、ある主要レベルと判定されるために必要不可欠とされる特徴を簡単にあげる。

 超級:裏付けのある意見を述べたり、仮説を立てたりすることによって、具体的な話題も抽象的な話題も議論できる。フォーマル・インフォーマルな場面に言語的に対処できる。

 上級:過去・現在・未来の時制を使って、詳しい描写・叙述ができる。複雑な状況に対処できる。

 中級:質問をしたり、質問に答えたりするという自発性があり、簡単な対面型の会話が維持できる。目標言語文化の中でサバイバルできるレベルである。 

 初級:主に単語・語句・暗記した文に頼り、自発性はない。サバイバルできないレベルである。

 ある主要レベルであると判定されるには、そのレベルで必須とされる評価基準が満たされていなければならず、主要境界を超えたレベルは質的に異なるものである。

 超級以外の主要レベルには、さらに、「−上」、「−中」、「−下」、の三つのサブレベルが設定されており、超級を入れて全部で10の級がある。それぞれのサブレベルは、一つ上のレベルの内容がどの程度できるかにより判定される。サブレベルの「−上」は、一つ上のレベルの内容が半分以上できるが、持続した形ではできないレベル、サブレベルの「−中」は、一つ上のレベルの内容が時々できるレベル、サブレベルの「−下」は、一つ上のレベルの内容がたまにしかできないレベルである。(図参照)

 例えば、中級−中の場合、主要レベル中級で必要とされることは全てできており、さらに一つ上、つまり上級レベルで必要とされることも時々できるということを意味する。中級−下の場合、中級レベルのことはかろうじて安定した形でできており、上級のことはほんのたまにしかできない。

 今回は、ある主要レベルと判定される際の重要な概念について解説する。

2) 意見の裏付け・抽象的な内容

 超級の必須要件は「裏付けのある意見を述べる」である。超級では抽象的な内容について意見を裏付けたり、仮説を述べたりすることが期待される。

 抽象的な内容というのは、具体的な物事について言及するだけでなく、それをいろいろな角度から考えることを意味する。例えば、エアロビクスがどのようなスポーツか話すことは具体的内容であるが、スポーツがどのように健康に役立つか述べることは抽象的な内容となる。最近見た映画のストーリーを述べることは具体的な内容であるが、その映画のテーマについて述べることは抽象的な内容と言える。

 ここで、世界の中での日本の役割について聞かれた超級話者の発話を見てみよう。

 ■発話内容の表記についての注意
※Rはテスター、Eは、受験者を示す。
※( )内は、聞き手、すなわちテスターの相づちを示す。
※文中の:は長い沈黙を示す。
※文中の発話例は、受験者の発話をそのまま文字表記してある。書いてあるものだけを見ると、文法の間違いなどが気になることが多いが、文法上の「正確さ」は機能の遂行を支える単なる一要素として見なすことが重要である。

E:そうですね、あのー、えーと、やっぱり日本人じゃないから日本人が見る感覚とは違うかもしれませんけど、… 中略 …そういう技術を移転してほしいなと思うんです。(うん)
 じっさい日本に来てみると家庭製品とか機械とかがすごくやっぱり発達しているんだなと思いまして、やっぱりそういうものが普及されると、人々の、こう、生活が楽になるんじゃないかなと思うんです。ただ、あんまり楽になりすぎると、人はこう、怠け者になってだめになるという話もあるのはあるんですけど、やっぱりそういう面では日本に来てみると、あー、いろんなもの、本当にほしいものが多いなと思ったんです。そういうものをほかの国でも作られるように。で、そのほかの国の人が本当に怠け者なので作れない場合は仕方がないんですけど、作りたいと思って努力している国で、その、何か教えてくださいというような、そういう声がありましたら、(うん)それにこたえてほしいなと思うんです。

 これは、技術の移転をしてほしいという主張(途中省略)に続けて、努力している国の声にこたえてほしいと述べている部分である。背景情報を述べ、自分の意見を強化するためにさらに否定の見解にも触れ、仮説を挿入し、それでも全体の趣旨を見失なっていない。また、話を切りだし、次々に自分で話題を発展させて、複段落を構成しながら意見を述べている。超級話者の発話は、このようにそれぞれの情報が時間的、論理的に順序づけられ、内容にふさわしい談話構成と結合性を有しているのである。

3)状況・場面と言葉遣い

 超級と判定する際、「フォーマル/インフォーマルな場面に合わせて、言葉遣いを調節することができる」ということも、大切な要件となる。

 次に、同一超級話者の使い分けを見てみよう。

*「友達の就職を社長に頼む」というロールプレーの一部

R:一度お会いしましょうか。
E:はい、そうですね。(ええ)あの時間の良いとき教えていただければ、その時呼びますから、(はい)よろしくお願いします。

*「友達を誘う」というロールプレーの一部

E:元気ですか。
R:うん、元気。
E:あー、そう。良かったわね。あの、実はですね、(うん)今日ひま?

 超級話者は、丁寧体での会話のほか、このように目上に対して使う敬語、親しい友人などに対して使う普通体での会話がある程度使い分けられることが必須である。上級では、フォーマルかインフォーマルか、どちらかの場面に対処できればよいとされる。

4) 描写・段落構成

 上級の必須要件は「過去・現在・未来の時制を使って、詳しく描写・叙述する」ということである。これらは段落の形を使ってなされる。

 まず、上級話者と中級話者の描写の例を比べ、詳しく描写するということについて考えてみよう。
ここで描写というのは、言葉により目で見たように描き出すことであり、叙述とは、物事の経緯を物語る言語的能力を意味する。

*それまで、映画のストーリーを語っていた上級話者による印象に残った1シーンの描写

E:まー、私は映画を作るのが好きだから、(うん)一番印象があったのは、あのー、全部白黒だったんですけれども、(うんうん)だけれども、そのー、白黒のシーンの中で、あのー、赤い洋服を着ている小さな女性がいまして、で、彼女は多分20〜30 分後に、(うん)死んだ時に、彼女の、なんて言うんですか、死体?(うん)が出た。で、まだ全部が白黒だったんですけれども、彼女の死体は、あの、赤い制服を着ていました。ちょっと印象がありました。一

*中級話者によるバティックの洋服の描写

E:あのー、(えー)結構、向こうの文化、あんー、マレイ人の文化の、えー、かいてのー、洋服ですねー。(あ、はーん)うん、結構、いろ、いろいろの色ついてますー。(はい)で、濃い色:みたいしー、(うん)あとー、(うん)手つくりもの。(え?)手つくりもの。(てーつくりもの?)てーしない。

 段落というのは、相互に関連し合ういくつかの文により構成され、ひとまとまりの意味を持つものである。上級話者の例では、名詞の繰り返しの他、接続語、時を表す副詞、文脈指示詞を使用し、文と文の結束が緊密になされ、段落が構成されている。そして、全体として、その映画を見ていなくても、シーンを想像することができる。

 一方、中級話者では、バティックの洋服がどのようなものか知っている人なら、何について話しているか、ある程度想像がつくだろうが、知らない人には、結局、どういうものかわからないのではないだろうか。描写という機能は達成されておらず、段落も不十分なものである。また、中級話者にとって、描写や叙述は難しい課題であり、このように談話の質が普通よりも落ちてしまうことがある。

5)タスクの種類

 タスク面では中級では、食べ物を注文する、ホテルを予約するなどの、サバイバルな状況に対処できることが必須要件であり、上級では複雑な状況に対応できることが必須とされる。複雑な状況とは、予測のできない事態であり、物事がスムーズに進まない状況ということである。

 例えば、デパートで買ったコーヒーカップが壊れており、電話で店員に伝えるというタスクの場合、受験者は、コーヒーカップをいつ買ったか、どのように家まで持って帰ってきたかを叙述し、今のコーヒーカップの状態を描写する必要がある。さらに、これからどうしたいかについて店員と交渉しなければならない。

 上級者は段落の長さの、結合された談話を使った描写や叙述ができるので、このような複雑な状況に対処できるのである。

6) 自発性

 中級の必須要件は、文を創造し、質問をしたり、相手の質問に答えたりするという自発性である。また、中級話者は、簡単な会話なら、自分で始め、続け、終わらせることができるので、はっきりしたサバイバル状況に対処できる。

*自発性の例1

R:M州はどうですか。
E:Mは好きです。しかし、とても寒いです。フッフッフッ。あそこで住みたくない。

*自発性の例2(「近くに店が全然ないのか」と念を押されて)

E:全然ありません。えーと、六本木にたくさんの店とレストランがあります。私の主人と一緒に六本木に晩ご飯をよく食べます。

 自発性というのは、テスターに聞かれたことについてのみ答えるのではなく、このように個人的な意味を何か付け加えることを指す。しかし、これは会話の主導権を握るような積極性を意味するものではない。

 初級レベルでは、暗記した表現を用いたり、単語や語句を使ったりして、最小限のコミュニケーションをする。初級の上では、自発性が見られるが、まだ単語・語句レベルに落ちることもあり、サバイバルできないレベルである。

7)おわりに

 今回は、各主要レベルとして判定されるための主な特徴について具体的に述べた。ただ、紙幅の関係で述べられなかった特徴も数多くあり、また、判定はあくまでも30分近くのインタビュー全体で得られた発話サンプルを対象になされるものであることを忘れてはならない。

 前述の必須要件をどの程度有している発話かを見定め、正しい判定を下すためには、受験者の発話サンプルを十分に抽出することが肝要である。受験者のレベルにあったインタビューがなされなければ、正しい判定が下せないわけである。次回はインタビューの方法について考えていく。

〔さいとう まりこ〕―文化女子大学