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OPIを授業に生かす 第6回

<活用編 1>

テストとしての応用例−日本の大学で

荻原 稚佳子

 先月号までは、開設・理論編として、ACTFL-OPIの概要を見てきました。今月号からは、いろいろな日本語教育機関で、OPIテストがどのように利用されているかをご紹介していきます。活用編1回目の今月は、日本の大学での応用例を取り上げます。

 

 ACTFL-OPIを授業に生かす方法としては、大きく分けて次の3つが考えられる。

(1)テストとして活用する。
(2)到達目標として活用する。
(3)クラス活動の手段として活用する。

今回は、大学での(1)プレースメントテストに応用した例と(2)到達目標として具体的な目標設定に応用した例を紹介する。

1)テストとしての活用

--プレースメント・テストに応用する--

●OPIはプレースメント・テストに適当か

 プレースメントテストは、学習者を最も適したレベルのクラスへ入れるために、その時点での実力を測るテストである。それまでの学習経験や学習形態、使用テキストなどの違いを越えて、同じ評価基準で口頭能力を測ることが必要である。そのため、ある限られた範囲の既習事項について学習の目標到達度を測る「学力テスト」は、プレースメントテストには適さない。ある言語をどれだけ習得しているかを測定する一般的なテスト、つまり、熟達度テストでなければならない。

 OPIテストは口頭表現能力を総合的に評価するものであり、現在のできること・できないことが把握できる「熟達度テスト」である。OPIテストの評価基準と形式を活用することで、プレースメントテストに応用することができる。ただし、OPIはテスターと受験者が1対1で15〜30分かかるテストなので、一時期に数十〜百人単位で学習者を受け入れる場合には、現実的にOPIをそのままの形式で利用することは難しい。そこで、今回は、ある夏期プログラムでどのようにOPIをプレースメントテストに応用したかを紹介する。

●OPIの基準に照らし合わせる

 まず、プレースメントテストをしようとしているプログラムの形態を考えてみよう。たいていの場合、作られるクラス数は決まっており、また、そこに来る学習者のレベルも、毎年、または毎回、ほぼ同じではないだろうか。そこで、プレースされる各クラスのレベルとOPIの基準を照らし合わせて、OPI基準の中で必要なレベルだけを、分けたい数のクラスレベルに組み直し、テストを短縮する。そして、テストの質問を、各クラスレベルで、できること・できないことが明確に分かる内容にする。言い換えれば、短縮型OPIテストでは、一つのレベルの幅がOPIより大きくなっており、学習者がその大きなレベル幅(範囲)の中にいるかどうかをチェックするのである(右下図)。

 私が担当した夏期プログラムの場合、クラス数は4つで、過去3年間にそのプログラムに参加した学習者のプレースメント時のレベルは、OPI基準での「初級-下」から「上級-下」であった。次に、例年の各クラスのレベルをOPI基準に照らし合わせると、学習者のレベルは、クラスレベルA「初級-下」、クラスレベルB「初級-中」、同C「初級-上」〜「中級-下」、同D「中級-中」〜「上級-下」と分けられる。つまり、学習者の口頭表現能力が図のクラスレベルA〜Dのどのレベルにあるかを測定し、その上で各学習者の特徴、強い点・弱い点が分かればプレースメントテストとしての役割が果たせる。

●対応レベルを判定できる質問とは

 学習者がどのクラスレベルであるかを測定するために、各クラスレベルに対応したOPI基準で何ができなければならないかを考え、その能力を測定する典型的な質問をする。その質問に十分答えられるか否かでレベルチェックを行い、一つ上のクラスレベルの質問が、突き上げに使われる。
 
 夏期プログラムでは、表1のような質問表を準備した。まず、導入として簡単な挨拶と名前を尋ねる。そして、「初級-下」にあたるクラスレベルAでは、誕生日や時間、部屋にある物の名前を尋ねる。クラスレベルBでは、「初級-中」に対応して、朝起きてから寝るまでにすること。クラスレベルCは、「初級-上」〜「中級-下」に対応した質問として、一週間の生活と家族について。クラスレベルDでは、「中級-中」以上に対応した質問として、自国と日本の比較と自分の趣味の説明という質問を選んだ。テストでは、Aレベルからスタートして、各クラスレベルの質問を一つずつしていき、十分できると判断されれば、次のクラスレベルの質問に移っていく。十分な形でできなければ、一つ下のクラスレベルに戻って、そのレベルの質問をもう一つ加え、どの程度安定した形でできるかを確かめる。

 どの程度の質でその問題に答えられるかを知るには、質問の形式を工夫するとよい。同じクラスレベルBの質問でも、自発的にまとまった話ができる学習者であれば、「あなたの朝起きてから寝るまでの一日の生活を教えてください」という説明要求型の質問に答えられる。しかし、この質問形式で答えが続かなければ、「朝起きてから、何をしましたか」「それから何をしましたか」と一つひとつたずねる質問形式に変えることによって、タスクの達成度がテスターの助けを必要とする程度かどうかの判断ができる。

 このように、OPIテスト全体の流れと判断の方法をそのまま活用し、各クラスレベルでの出来と質を測ることでレベルチェックと突き上げをして、最終的な判断をする。その過程で、その学習者の強い点・弱い点も見えてくる。

●ロールプレイの活用法

 クラスレベルC以上と思われる学習者には、「映画に誘う」というロールプレイを課し、習い覚えた文ではなく、自分の言葉で、自由に、どれだけ主導的にタスクを達成できるかを調べた。このロールプレイでは、「誘う」という機能だけでなく、話の流れをいくらかコントロールすることで「相手の都合を聞く、場所や時間を決める、場所を説明する、映画の内容やおもしろさを説明する」などの機能を含めることができ、「上級」レベルのタスクにまで発展させることができる。

 また、誘う相手を上司や先生に変えれば、言語表現や談話構成での丁寧さがどの程度表現できるかを調べることもでき、「超級」レベルのタスクにまで発展させられる。

 このように、OPIテストでは、一つのロールプレイをいろいろな機能を持つタスクに変えることができるため、プレースメントテストのようにさまざまなレベルの学習者をテストする場合でも、やり方次第で、的確に対応することができる。

●その他の工夫

 時間的制約を克服するための工夫として、筆記テスト結果を参考にしてもいい。通常、プレースメントテストを会話テストだけで行うことはないであろうから、筆記テストの結果を基に、学習者のクラスレベルの見当をつけ、会話テストではウオーミングアップの後、そのクラスレベルの質問を中心にテストを行う。上記の例で言えば、クラスレベルDと見当をつけた学生には、挨拶と自己紹介の後、クラスレベルCの質問に移る。クラスレベルA・Bの質問を割愛することで、クラスレベルC・Dの質問やロールプレイでの突き上げに時間を十分かけることができる。

2)学習目標として活用する

●本当の口頭表現能力を知る

 次に、OPIを具体的な学習目標として活用する例を紹介する。現実の口頭表現能力とクラス内の口頭表現能力には違いがある、と感じたことはないだろうか。クラス内では、教えられた文法・文型や表現、または、それらを含む会話が上手にできればいいのだが、現実社会では、いつも教科書どおりに話が進むわけではなく、刻一刻と変わる状況に対応できなければならない。そこで、学習者の本当の口頭表現能力を知り、もう一つ上のレベルになるために、どんな能力が必要かを、OPIによって知ることができる。

●具体的な目標を決める

 その一例として、「中級」から「上級」を目指している一年間の交換留学生クラスでの試みを紹介する。担当クラスでOPIを行い、その中で家族について説明を求めたところ、OPI基準のテキストの型が、単文または連文であることがわかった。つまり、既習の文型・表現を使って文を作り、説明することはできるのだが、自分でまとまった話を構成することができず、テスターに「それから?」「弟さんは今何をしていらっしゃいますか」などと助けられて、やっと一つの話題を完結する状態だった。「上級」になるためには、段落の型で説明できる能力は重要な要素であり、何らかの指導の必要性を感じた。

 そこで、クラスの学生全員の談話構成を調べたところ、個別的な話題を一つひとつ述べているだけで、全体的な話やまとめの言葉がない羅列的な談話構成(例1)をしている学習者が多く、全体から個別へ、個別から全体へと話の発展・広がりがある発展的な談話構成(例2)で話せる学習者が少なかった。例を挙げると、

 

■例1:

 うちの家族?私は一人っ子ですから、兄弟 がいません。子どもの時にペットがいますけど、今、いないです。父はうちの中から勤めていますから、いつも家にいます。
(テスター:「どんな仕事をしているんですか」)
 家具の会社で勤めています。母は、もう、今、家の中で勤めています。母は、ちょっとエステチック、美容院の仕事のことをしています

  ・(兄弟の話)
  ・(ペットの話)
  ・(父の話)→(仕事の内容)
  ・(母の話)→(仕事の内容)

 

■例2:

 4人います。犬もいます。両親と弟一人、おります。お母さんが最近まで看護婦さんですけど、もうやめたんです。今、これからしたいことはまだ決めていない、母は。父は、社長ですが、そういう仕事は全然楽しくない。やめたいんですけど、今、私と弟は同じ大学に進んでいますから、お金がいります。ちょっと大変なんですね。

 例1と2の話の流れを図解すると、バラバラに話題が並んでいる例1と、全体から個別への発展が見られる例2の違いがわかる。こうして、学習者の欠けている能力をはっきりと理解することで、授業に具体的な目標を持つことができる。

●目標に合わせた指導

 このクラスでは、このあと、読解や作文指導に必ず、全体の構成を考えさせる活動を取り入れた。会話指導でも、その話題を説明するにはどんな談話構成がいいか、それにはどんな接続詞を使うかを考えさせたり、談話構成を導くワークシートをもとに会話練習をさせた。また、ある話題についてどんな順序で質問したらいいかを考えた後、新聞記者になってインタビューする、というロールプレイ練習なども行った。こうした活動によって、学習者は常に談話構成を意識するようになり、6か月後のOPIでは、クラスの学習者全員が、まとまりのある段落の型で話ができるようになった。
 

 このように、OPIの基準で求められている口頭表現能力の一部に焦点を当て、学習者の会話を観察することで、次の目標が生まれ、授業活動に生かしていくことができる。教師にとって、会話指導の難しさは、学習者に合わせた適切で具体的な目標の設定である。その点でOPIは、学習者の能力診断にも、目標設定にも、力強い味方となる。

〔おぎわら ちかこ〕―早稲田大学国際教育センター

 

参考文献:
荻原稚佳子、堀歌子「OPIによる談話構成・話題展開分析に見られる学習者と教科書との関連」『講座 日本語教育』第33分冊、pp144-165、早稲田大学日本語研究教育センター(1998)