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OPIを授業に生かす 第7回

<活用編 2>

テストとしての応用例−日本語学校で

伊藤 とく美

 解説・理論編に続いて、先月号からはOPIの活用編として、OPIテストが実際に日本語教育機関でどのように利用されているのかを紹介しています。今月はその第2回目。日本語学校における応用例を取り上げます。

 

 ACTFL-OPIを日本語学校の授業に生かす方法としては、大きく分けて次の3つが考えられる。
  ・ テストとして活用する。
  ・学習の到達目標として活用する。
  ・クラス活動の手段として活用する。

 今回は、日本語学校で上記の具体的な到達目標の設定として応用した例と、クラス活動の手段として活用した例を紹介する。

1)会話の授業でのOPIの活用法

●会話における到達目標とは何か

 教師も学生も日本語会話能力を正しくとらえて授業に臨んでいるのだろうか。かなり漠然と取り組んでいるのが現状ではないだろうか。効果的な授業には到達目標は不可欠である。OPIの到達目標をクラスにどのように活用したかについて紹介したい。

 会話クラスは、週1回、50分2コマで、全18回のコースである。『日本語表現文型中級(以下『表現文型』)』(凡人社)と『テーマ別 上級で学ぶ日本語』(研究社出版)を主教材とする2クラスの会話希望の学習者は18人である。

1)-1 学生の会話能力や会話授業に対する意識

 学習者の会話に対する意識を知るため、まず、授業初日に学生に次のような質問をしてみた。

Q1:会話能力試験の経験があるか。
Q2:自分の会話能力をどれくらいだと思うか。
Q3:どんな会話ができるようになりたいか。
Q4:どんな会話授業を望んでいるか。

 Q1に対して会話試験経験者は0、Q2に対しては、発音が悪い、単語を知らない、敬語が使えないといった答えが多く、Q3には、日本人と上手に話せるようになりたい、仕事で使えるようになりたい、という答えであった。Q4には、教室以外で日本人と話す機会がない学生が多く、日本人と話し合える授業を希望する学生が多かった。学生は自分の会話がまだ不十分であると認識しており、上手になりたいと思っているが、自分の能力の程度については認識が不十分で、今後どのような学習が必要であるのか理解できていないということがわかった。

1)-2 目標の具体化

 そこで、クラス授業の中で希望者AさんのOPIを実施した。ほかの学生には、自分ならどう応えるか考えながら見るよう、指示をした。

 25分の会話とロールプレイが終わり、学生にAさんの今の会話はどうかと尋ねると、概ね、上手だ、すごくよく話せる、でも困っていた、難しそうだった、できないときもあった、というものであった。本人の弁では、「大体答えたんだけど、何を言えばいいか困ることもいっぱいあったんです。敬語は知ってるけど使えなかったんです。ああ、難しかったんです」とのことだった。そこで、OPIの評価法について図示(図1)して、中級、上級、そして超級になるためには、それぞれ何ができなければならないか、説明した。

図1

レベル
談話の型
機能・タスク
超級
連段落
意見・仮説・交渉
上級
段落
説明・描写・意見
中級
意志・理由・誘う・単純な応答

 Aさんの評価については、「段落で話せる。説明・描写・意見・比較ができる。複雑な交渉もだいたいできる(例えば、買った靴が気に入らないので返品して代金も返してもらう)。ただ、パターン化した誤りが目立つ(例えば、『辛いなんです』『意見聞きたいなんですが』)、敬語が十分ではない」といったものであった。

 これらの総合評価として「上級の下」という評価であることを話し、今後は特に、上級の、描写・説明・比較・意見を段落単位で述べることを目標に練習していこう、と話し合った。

1)-3 練習

 1コマ目はクラス全体の練習である。まず、自分の住んでいた町について詳しく描写する練習をさせる。見えていたものを全体から部分へ、また、遠いものから近いものへ、上から下へと順番に話させて、聞いた人が簡単な絵にかいて大体合っていれば、詳しく描写できたことにする。また、写真や本人のかいた絵などを見せて確認することもした。さらに2コマ目はスクールビジターを1、2名依頼し、グループに分かれて、前の時間に練習したことを話したり質問したりして練習していく。学生たちは明確な目標と自分の現在の能力を理解しながら学習していくので、効果的に行えるようである。

1)-4 ロールプレイ

 現実の場面で日本語を使うためには、事前にあらゆる場面を想定して練習することが必要である。そのための練習方法として、ロールプレイを行う。OPIのロールプレイカードは、中級から上級・超級まで色分けされていてわかりやすく、そのまま使用することもできる。また、手作りのカードを使って、さまざまな場面で、違った役割をしながらタスクを達成していくことで、幅広くかつ現実的に言語活動が行えるようになる。

手順1 授業の目標に沿ったカードを用意する。
例:泥棒に入られて、警察に電話連絡する。
2 ペアになって、役割を交代しながらロールプレイをする。
3 1ペアずつ皆の前でロールプレイをする。
4 見ていた人は、今、どんな場面でどんな役割の人がどんな話題で話していたか、結果はどうなったか、を答える。またタスクが達成できたか、良かったところ、足りない点などを言い、最後に教師がコメントして、再度、練習する。

1)-5 評価

 最終回にOPIをもう一度行い、評価し、それらを学生にフィードバックする。自分の現在の日本語能力を知り、目標が設定された学生は、明確な意識を持って練習を重ね、確実に日本語会話能力を身につけることができた。そのためにはOPIのテストや評価基準が有効であったといえよう。

2)文型・文法中心の授業でのOPIの活用法

 文型・文法中心の教材にOPIをどのように使うか。主教材『表現文型』使用のクラスにおけるクラス活動の応用例を紹介する。

 『表現文型』の各課の内容は、OPI中級・上級のタスク・機能・内容とかなり一致している(図2参照)。よって、各課の文型・文法などの練習が済んだところでOPIの機能・タスクを達成する練習をすることで、会話能力の向上が図れる。

2)-1 クラス活動の手順

 各課とも導入、練習、応用、作文、会話の順に行う。ただし、各課に入る時、課の内容とその課の学習でできるようになることの目標も与える。具体例で見てみよう。

2)-2‐1 第5課(変化)で発表

 第5課(変化)が終わったら、作文「変化したこと」を宿題にし、そのあと、会話練習で、変化したことについて友達に説明するよう指示を出す。10分ほどお互いに話したり聞いたりしてから、クラスで発表させる。

【発表の例】インドネシアのAさん

 国で家事は全然やったことないです。なぜならメードさん5人がいましたですから。しかし、日本で私1人で料理作ります、作るようになりました。洗濯と掃除ともしなければなりません。ああ疲れたになっちゃったです。国で仕事は英語の先生しました。今アルバイトします、居酒屋でホールします。私は間違います。店長は怒り、店長に怒られます。その前、お客さんにビールがこぼしました、濡れてしまいました。お客さん困って、私も本当困った、ハハハ泣きたいでした。1時頃家に帰って、少し勉強します。でも、とても疲れて寝ちゃうこともあります。もうすぐ朝になっちゃって、早く早く学校に来て勉強します。毎日毎日、本当、忙しくになりました。大変になりました。

 次から次へと日本での生活の大変さが飛び出して、とどまるところを知らない話し方である。クラスメートは頷いたり笑ったりしながら聞いている。家事のことやアルバイト、時間などの変化が語られ、最後に感想も述べている。終わったところで、学生に感想を聞く。

 「Aさんは国でお姫様の生活でしたが、今、メードさんのようになりました。可哀想です」という発言があった。Aさんの変化した内容は皆に伝わり、タスクは達成できたといえよう。そこで教師のコメントを伝える。変化した内容をまとめて話すこと、大きい話題から細部へ、全体から部分へ順序立てて述べること、接続語や指示語を使って段落にまとめること、最後にまとめをすること、などを指導した。これらの学習により、OPI上級レベルの「比較説明」ができるようになった。

2)-2-2 16課(伝聞)でスピーチ

 16課の問題練習が終わったところで、作文を書かせ、添削して返却した後、注意されたところに気をつけるように言ってから「日本の生活」についてスピーチさせた

【発表の例】 中国のBさん

 日本に来て1年半、甘い味、酸い、辛い、苦い味を知りました。(中略)遠いですが、お金のためアルバイトに行きました。店長が代わるとともに皿洗いをするようになりました。友達は「あなたは今生分の皿を洗ったね」と言いました。そして今また来世の皿を洗うかと思ったら、国へ帰りたくなりました。でも、母に聞かれるといつも大丈夫と答えます。母は毎日お寺で祈っているそうです。それに中国には「苦は楽の種」という諺があります。私には目標がありますから、今は苦しいですが頑張らなければなりません。

 諺を引用し、友達や母親の言葉も入れて話す彼の話は、クラスメートたちにもわかりやすく説得力があり、終わった後、涙を流す学生が多く、しみじみと日本の生活について話すことができた。説明したり意見を述べるとき、理由や裏付けになることを入れて話すことの大切さを、練習できたといえよう。スピーチは超級のタスクであるが、折に触れ行うようにしたいものである。

 以上のように、学習活動にOPIを取り入れた授業を試みている。これらが可能になったのもOPIワークショップで会話の評価法とインタビューテストの方法がわかったことに負うところが大である。中でもロールプレイのやり方に慣れたことは学習者との役割練習、学習者の心理的な面の理解(恥ずかしさ、役割への抵抗感)に役立った。

 OPIは、すべての学習活動において、総合的な能力評価やチェックを行いながら到達目標に向けて指導するのに、活用できるといえる。

〔いとう とくみ〕−メロス言語学院