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OPIを授業に生かす 第9回

<活用編 4>

テストとしての応用例―韓国の大学で

甲斐沢 とし子

 OPIの活用編として、OPIテストが実際に日本語教育機関でどのように利用されているのかを紹介しています。今月はその第4回目。韓国の大学における応用例を取り上げます。

 

 韓国の大学におけるOPIの活用は、実は近年始まったばかりで、まだ歴史が浅い。実際の活用例は日本などで使われているように、(1)テストとして、(2)到達目標として、(3)教室活動として、と大差はないが、「韓国の大学における」OPIを深く理解していただくために、具体例を紹介する前に、まず韓国でのOPIの背景について紹介する。

 韓国でのOPIは、これまで、日本語教育機関ではなく主に大企業で活用されていた。それはOPIの評価が、言語を選ばずに客観的にレベル判定をするからで、つまり、英語学習歴10年の社員Aと日本語学習歴2年の社員Bを、一定基準で評価し、人事の客観的なデータにするからである。今日でも企業ではOPIが活用されているが、OPIが大学で積極的に活用されるようになったのは、1996年、ソウルで行われた第1回ワークショップ以降のことである。それは、過去3回までのワークショップに大学の教師が多く参加し、OPIの理論とインタビューの技術を学んだことによって、教師自身が、それまで漠然と捉えていた「初級・中級・上級」のレベル区分が明確になり、また、そのレベルによって学生が身に付けるべきことがはっきりして、教育の指針ができたからにほかならない。現在では、テスターになった教師を中心として大学でOPIを活用しているほか、1999年には韓国日本学会の傘下でOPI研究会を発足させ、研究活動も盛んに行っている。

 以下、韓国の4つの大学で行われている活用例を紹介していく。

ケース1:プレースメントテスト・ロールプレイ
慶南情報大学 日本語集中研修プログラムでの活用例  テスター:呉智恵(西京大学校)・甲斐沢とし子(漢陽女子大学)

 ここでは、大学1・2年生を対象とした2週間の集中コースに使われたクラス分けのプレースメントテストと教室活動を紹介する。プレースメントテストは、コースの初日に3人の面接官が202人の学生を約4時間でテストしなければならず、正規のOPIでは時間的に無理があるため考え出された略式OPIで行われた。

 面接は1対1で行われ、学生には、面接官が提示した絵を描写するというタスクが与えられた。その際、学生には、あらかじめ控え室などで「あきらめずに自己の能力の限り表現するよう」指示を出しておいた。面接官は、提示した絵が学生にとって簡単そうであれば、少し複雑な絵を続けて提示する。絵はレベルに応じて1人1〜3枚提示された(面接官の手元には10枚の絵がある)。面接官は、学生の発話を聞き、テキストの型(単語・文・段落)、正確さを考慮しながら、OPIの基準に従ってレベル判定をした。

 クラス分けは、学年別で1クラス15人ぐらいという条件があったため、判定結果に従って各学年を上位から並べ替え、まず、それを機械的に約15人ずつに分けた。次に、レベルの合わない学生を移動させてクラスのレベルを調整し、1年生7クラス(1クラス13〜23人)、2年生5クラス(1クラス12〜17人)を作った。1年生は面接の結果を重視したため23人というクラスもできてしまったが、授業の際、特に支障はなかった。むしろ、クラスのレベルが統一されたことで、学ぶ側にも教える側にも利点が多かったと思われる。

 次に、同コース内で2年生に対して行われたロールプレイを活用した教室活動を紹介する。扱ったロールプレイは「留守番電話にメッセージを残す」というもので、学生には(1)友達を旅行に誘うメッセージ、(2)約束を変更するメッセージ、(3)約束の時間に遅れるというメッセージ、を課題として与えた。授業全体(3〜4時間)の構成は、最初の時間に学生は課題だけが与えられ、思いつくままにメッセージを録音する。次の時間は、教師が同じ課題をした日本人学生のメッセージをモデルとして紹介し、その後、最初に録音したメッセージを細かく修正して練習させる。最後の時間は、留守番電話に残すメッセージの構成を理論的に考える、というものである。

 このロールプレイは録音テープを用いたため、ほかの学生の前で実演させるよりもクラスが落ち着いた雰囲気になって、学生が内容に集中できたこと、また当たり前だが、テープを繰り返し聞くことができたという点で有効であった。ロールプレイを人前で演じるとき、演じる学生の「恥ずかしさ」や見る側の「冷やかし」が伴って、うまくいかないこともあるが、ロールプレイを授業で行う際は、このように、録音したりビデオで撮影して指導するのが効果的なのではないかと思われる。またこの授業では、ネイティブとノンネイティブによるチームティーチングで行ったので、学生に課題を正確に理解させるときや留守番電話の構成を考えるときなど、難しい部分は韓国語で授業が行われ(基本的には日本語を使用)、また録音した学生の誤りについてはネイティブが指導することができ、ネイティブ・ノンネイティブの持ち味が生かされた授業であった。

ケース2:コースデザイン
西京大学校 日本語学科での活用例 テスター:泉千春(西京大学校)

 韓国の大学は普通、2学期制をとっており、1学期が16週間(中間考査・期末考査各1週を含む)で、授業は科目によって異なるが、週2〜4時間ある。ここでは、OPIの理論を活用して、教師が1学期のコースデザインをどのようにしたかを紹介する。

 学期の初めに学生に配られる「講義計画書」には、その科目の学習目標や講義内容が書かれており、学生はその科目を受講することで何ができるようになるかを確認することができる。

 例えば、2年生の到達目標は「中級-中」で、「サバイバルレベル」の「外国人の日本語に不慣れな日本人でも努力すれば聞き取れる」日本語を目指している。また3年生の到達目標は「中級-上」で、「描写・叙述」「例を挙げながら話す」「意見交換」など、上級レベルで必要なタスクが目標に取り入れられている。このようにOPIのレベル区分を用いれば、教師はその年度、その学期の学生のレベルに合った到達目標を、上のレベルにも下のレベルにも調整することが可能であり、具体的な目標を示すことができる。

 講義内容(次ページ資料参照)には、使用している教科書の内容に合わせ、OPIのタスクに基づいた「〜が説明できる」「〜について述べることができる」などの具体的な目標を明示したり、ロールプレイや意見交換などの教室活動を取り入れたりして、OPI的な考え方を示している。

 講義内容を書くとき、とかく教科書の文法項目の明記だけになりがちだが、教師がOPIを意識した結果、到達目標に合わせた口頭表現能力の向上を目指した講義内容になっている。

 また韓国の大学では一般的に、クラスをレベル別に構成しないため、この大学では、第1週目にプレースメントインタビューと称した10分程度の略式OPIテストを実施している。それによって教師がクラスのレベルを把握することができ、第2週目からの教授法を検討することができる。

ケース3:上級を目指した教室活動
仁荷大学校 日語日本学科での活用例 テスター:桜井恵子(仁荷大学校)

 ここでは上級を目指した教室活動を紹介する。科目は3年生を対象にした「会話」(選択科目)で、学生数は20人に限定されており、韓国の大学では恵まれた環境であると言える。授業は週に3時間行われ、そのうち1時間はインタビューやスピーチ、ディベートなど、実際に学生の口頭表現能力が応用できる内容となっている。

 インタビューは、同授業内で行われた「プロジェクトワーク」(大学のある仁川市と姉妹都市の北九州市との交流について)と連結させて、仁川市に派遣されている北九州市の職員にインタビューしたものや、「アンケート調査」のテーマとして「21世紀を迎えるにあたっての日本人の意識」や「日本人の結婚観」などを調査するために、韓国に留学中の日本人にインタビューしたもの、などがあり、日本と関係の深い国、日本人が多く訪問する国の特徴を生かしている。インタビューの結果は報告書としてまとめられている。

 スピーチとディベートはクラス内の活動であるが、学生が積極的に取り組めるような工夫がされている。スピーチは約5分のもので、まず学生は原稿を書く前にスピーチのアウトラインを教師に提出する。教師が指導した後、学生は原稿を書き、発表する。評価は、教師と学生全員が「スピーチ評価表」に基づいて発表者一人ひとりについて採点する。それを集計して順位を決め、入賞者は表彰され、表彰状とチョコレートの記念品が渡される。また「スピーチ評価表」は発表者に戻され、自分の発表について反省する材料となる。

 ディベートも、学生の投票で決めたテーマについて、肯定側・否定側が立論シートを準備し、ディベートを行う。勝敗は視聴者の審判シートの結果で決めるという方法がとられている。

 以上のような活動には、フォーマルスピーチをしたり、意見や仮説を述べたり、また説得をしたりと、超級に必要なタスクが盛り込まれており、学生は楽しみながら日本語口頭表現能力を向上させることができる。またテーマも超級に必要な「社会的・専門的内容」が扱われているため、学生が母語でも深く考えたことがないようなテーマについて、この活動をきっかけに考えたり、その後の問題意識を高めたりできる、という効果もある。

ケース4:評価・学生指導
同徳女子大学校 日語日文学科での活用例 テスター:奥山洋子(同徳女子大学校)

 韓国の大学では、各学期の第8週目こ中間考査、第16週目に期末考査を実施する大学が多い。ここでは「会話」の評価としてのOPI活用例を紹介する。この大学でも学生数が多いために正式なOPIはしていない。試験は1対1の面接試験で、その内容(タスク)は授業の学習項目を扱っている。面接時に録音をし、その後OPIの評価基準を応用して評価している。

 評価表には「タスクの達成度」「文法の正確さ」「発音」「流暢さ」「テキストの型」など、OPIの判定基準と同じチェック項目を設け、各項目ごとに5段階評価をする。こうすることで評価に客観性が加わり、また、学生の長所・短所を把握することができる。同大学では、この評価表が学生とのカウンセリング資料としても用いられており、学生個人に合った、きめ細やかな指導がなされている。学生にとっては、単に成績(A+、A0、B+、B0、C+、C0、Dの7段階)が与えられることよりも、自分にとって努力が必要な点はどこか、伸ばすべきことは何かと具体的に学習目標が立てやすくなる。それと同時に、学生の学習意欲も高まり、OPIの評価基準を利用することによって教育的効果も見られるようになった。

 また同大学ではそのほかにも、OPIを利用した学生指導が行われている。韓国も日本の文部省の国費留学生やJETプログラムなどの対象国となっているが、国費留学生などで同大学から日本へ行った学生に対して留学の前後にOPIを実施し、留学によってどんな能力が伸びたか、または伸びなかったかを測ることによって、その学生への学習指導、および留学を目指す学生への試験対策指導や留学相談をしている。

まとめ

 以上、韓国内の4つの大学でのOPIの活用例を見てきたが、最後に日本語学習者の多い韓国ならではの展望を述べたいと思う。韓国では近年、特別入学制度「一芸入学」を採用している大学が増えている。特殊な技能を持っている学生の入学を、一般の入学試験とは別の試験によって認めるという制度である。

 先にケース4で紹介した同徳女子大学校では、1999年度から日本語の「一芸入学」を認めており、受験生4人中3人が日語日文学科に合格している。その入学試験の中でOPIテスターによる日本語の面接が実施された。

 現在、韓国内の高校では、日本語を第二外国語科目として教えている高校が多く、一部では専門的に日本語だけを教えている高校もある。そして2002年度からは中学校でも第二外国語科目として日本語教育が始まることが決まっており、韓国では低年齢層の日本語熱がますます高まっていくだろうと予測できる。

 このように、中学・高校で日本語教育が盛んになれば、日本語の「一芸入学」を望む受験生も当然増えていくと考えられ、受け入れ側である大学もそれに備えなければならなくなるだろう。もちろん筆記による試験も重要であるが、中学・高校の外国語の学習指導要綱には「コミュニケーション」を重視する外国語教育が唱えられており、そうした教育が盛んになれば、大学の入学試験においても、筆記試験と合わせて、口頭表現能力を測る試験が必要となるのは間違いない。このような意味においても今後、OPIは韓国の大学入試にも重要な役割を果たすようになると考えられる。また大学入学を目指す中等教育の現場でも、OPIを意識した教育がなされるようになるのではないだろうか。21世紀、韓国における新しい日本語教育のキーはOPIが握っているように思われる。

〔かいざわ としこ〕−漢陽女子大学