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OPIを授業に生かす 第12回

<活用編 7>

ACTFL外国語能力基準に基づいたシラバスの作成

横山 紀子

OPIの活用編として、OPIテストが実際に日本語教育機関でどのように利用されているのかを紹介します。今月はその第7回目。国際交流基金日本語国際センターでの応用例を取り上げます。

 

 国際交流基金日本語国際センターでは、1997年度から非母語話者教師研修のプレースメント・テストの一部にOPIを導入している。ここでは、海外日本語教師短期研修と呼ばれる2カ月の研修(毎年、春・夏・冬の3期に実施)における3年間の実践を振り返り、次の2点について報告する。

1.ACTFLによる外国語能力基準に基づいたシラバス作成の試み
2.プレースメントテストとして行っているOPIと日本語能力試験結果との相関 

1)シラバス作成の試み

 プレースメントにOPIを導入したことの利点は、OPI判定により各研修生の研修開始時点での口頭運用力が、(1)機能・タスク、(2)場面・内容、(3)正確さ、(4)テキスト・談話の型、の4つの側面からの記述により明らかにされ、講師・研修生の双方が一定の基準に基づいた学習目標を共通認識することが可能になったことである。この効果をさらに生かし、多人数の講師が共通の具体的目標を持って授業に臨めることを目標に、短期研修では「総合日本語」と呼ぶ日本語科目のシラバス作成を試みた。

 短期研修は研修期間が正味5週間と短いため、短期間にできる限り研修生が達成感を味わえるように、シラバスおよびカリキュラムに次のような特徴を持たせた。

(1)短い研修期間に技能別のクラスを設定すると、すべてに細切れの印象を免れないことから、四技能統合型のシラバスとする。

(2)海外で日本語教育に従事する研修生は、日本語だけでなく、日本人の生活・文化面の知識や情報を伝える役割を担っており、日本に関する情報に関心が高い。そのため、トピック・ベースのシラバスとする。

(3)各期によって異なる研修生の多様なニーズに柔軟に対応するために、特定の市販教材には準拠せず、ACTFL外国語能力基準の観点から、各トピックの中での到達目標を記述したシラバスを用意した。教材は、後述するリソースを利用して各講師が作成する。

 シラバスは、「自分・家族・家」「食べ物・飲み物」「学校・教育」「旅行・交通」など、現在のところ11のトピックからなり、それぞれのトピックごとに各レベルに合った「機能・タスク」の例を記述している。レベルは下のシラバス例に示すような6つの段階に分かれており、プレースメント・テストでのOPIの判定結果を受けて、現在のレベルから1段階上のレベルに達することを目指して、学習を進めていく。「学校・教育」というトピックのシラバスを例として示す。なお、1998年までは上級レベルはサブレベルが2つだけであったことから、このシラバスのレベル設定もそれに準じている。また、初級-中以下がないのは、研修生の中にこのレベルに該当する者がほとんどいないからである。

 前述したとおり、プレースメントテストはOPIと日本語能力試験の2種類を行っているが、実際のクラス分けは、OPIの結果を基軸に、日本語能力試験の結果を加味して行っている。当センターの教師研修に参加する研修生は、その多様な学習背景から、四技能の運用力に大きなばらつきのある者が少なくないため、OPIと日本語能力試験のどちらを軸にしてクラス分けをしても、多少の歪みが生じるのは避けられない。しかし、2カ月という短い滞日の機会に伸びを実感しやすいのは口頭運用力であることや、「読む・書く」能力の差については、予習や語彙リストの配布などである程度補えることから、OPIを軸にしたクラス分けとした。従って、各クラスの構成メンバーはOPIでほぼ等しいレベルの研修生であり、シラバスの「聞く・話す活動に関する到達目標」に関しては、ほぼ全員が、同じレベルから同じ到達目標を目指すことになる。一方、「読む・書く活動に関する到達目標」に関しては、研修生の現状レベルにばらつきがある。また「読む・書く」活動については、ACTFLの評価基準はあるものの、その基準に基づいたサンプルテスト等の具体的なものがないために、研修生のレベル判定を行うことが難しく、判定結果と照合しながらのシラバスの検証作業ができないなど、困難が多い。しかし、後にも触れるが、口頭運用力と「読む・書く」能力を含んだその他の技能の発達は、相互に関係が深く、口頭運用力の伸び悩みの原因が「読む・書く」能力の不足ではないか、と考えられるケースも少なくない。研修生にとっても、自らの口頭運用力と「読む・書く」能力のバランスのあり方を知ることは、自己開発の指標となるはずなので、「読む・書く活動に関する到達目標」も充実させていくことを、今後の課題として考えている。

 このシラバスは、これまでの「総合日本語」授業で試してみた教室活動から書き起こす形で作成してきたもので、研修生のOPI判定結果のレベルと照合しながら、検証および加筆修正を続けてきた。また、添付したシラバス例には紙面の都合上、記さなかったが、実際のシラバスには、各「機能・タスク」の下にリソースリストがついている。その「機能・タスク」を達成目標とした教室活動をデザインする際に利用できる既製教材の箇所や講師の自作教材、ビデオなどをリスト・アップして具体的に記載しておき、講師間でのリソースの共有を図っている。

 以下に、シラバスの作成と試用に際して感じたことを加えておきたい。すなわち、ACTFLの能力基準から引き出せるのは、あくまで「テストシラバス」であり、「学習シラバス」とは異なるのではないか、ということである。ある言語活動(例えば「説明する」)が真にできるようになるためには、まだその活動が不完全にしかできない段階から学習や練習を始めなければならない。従って、「学習シラバス」には「テストシラバス」には表れない練習段階の活動が含まれるべきである。例えば、例として示した「学校・教育」のシラバスで、「小学校見学の様子を詳しく説明したり、感想を言ったりすることができる」という「上級」のタスクと同類のタスクが、「中級」のレベルでは「小学校訪問についての感想や自国との違いを簡単に言うことができる」と記述されているのは、このためである。

 また、ACTFLの基準では、「読み」はあくまでも学習者用に加工されていない、生の素材に対する読み能力を記述しているが、このシラバスでは学習者用に加工された文章も含めて扱っているのも同様の理由からである。

 短期研修を企画・運営する講師は延べ20人以上にもなり、そのうちOPIテスターの資格取得者はむしろ少数派である。しかしこのシラバス作成により、講師間で共通の基準に基づいた授業展開が可能になったことが最も大きな成果だと感じている。

2)OPIと日本語能力試験結果の相関

 次にOPIと日本語能力試験(2級と3級を50%ずつの割合で合成したもの)の相関について、これまでの結果を簡単に報告したい。口頭運用力と文法や語彙の知識量が無関係でないことは容易に想像がつくが、果たして具体的にどの程度の相関があるかということは、大いに興味を誘う。

 ACTFLが定める公式な判定プロセスでは、インタビュー・テープを第2テスターが聞いて再判定を行い、その判定結果がインタビューを行った第1テスターの結果と一致して初めて、正式な結果として認められる。当センターでは、これまでのところ、第2テスターによる再判定を行っていない。従って多少の誤差を含んだデータであることは承知の上だが、多少なりとも参考になるのではないかと思い、紹介する次第である。

 グラフ1はOPIレベル別の日本語能力試験の平均点を示したものである。(データ数は202。被験者は当センターでの研修に参加した世界30カ国以上からの現職日本語教師)。

 「3級文法」「2級文法」は、「文法・読解」部門から文法に関するテスト項目の得点のみを取り出した得点を%で表したものである。

 グラフ内の凡例の( )に記した数字はOPIとの相関係数である。グラフ1からは主に次の3つのことが読みとれる。

(1)OPIで中級-上と判定された研修生は、ほぼ2級合格(60%)以上の文法および文字・語彙の知識を持っている。

(2)OPIで上級-上と判定された研修生は、ほぼ2級合格(60%)以上の文法および文字・語彙の知識を持っている。

(3)OPIと日本語能力試験の得点には明らかな相関(0.68〜0.73)があり、OPIで測られる口頭運用力は、相応の文法および文字・語彙の力によって支えられている。

 グラフ2は、OPIレベル別の日本語能力試験2級文字・語彙得点の分布を示したものである。(このような得点分布図は、3級文字・語彙や3級文法、2級文法についても興味深い現象を示しているが、ここでは紙面の都合上、2級文字・語彙についてのみ紹介する)。グラフ1で見た平均点だけでは明らかにならないが、グラフ2を見ると、実際の得点分布はかなりばらついており、特に中級-上と上級はOPI上では主要境界線を挟んで、明らかな運用力の違いがあるとされながら、日本語能力試験2級文字・語彙の得点分布の広がり方は非常に類似している。一方、上級-上の得点は、中級-上や上級とは異なり、大きく高得点寄りに偏って分布している。日本語能力試験3級までの語彙のほかに、2級で新たに加えられる語彙の多くは漢語を中心とした抽象語であるが、それらの抽象語や漢字の力の差が表れるのは、中級-上と上級の間ではなく、むしろ上級と上級-上の間であるようだ。口頭運用力が上級-上以上に伸びていくためには、2級レベルの漢字・語彙力が不可欠であることがわかる。

 このようにOPIで測られる口頭運用力をそのほかのテスト結果との関係から考察してみると、日本語の習得にかかわるさまざまな現象が見えてきて大変興味深い。

〔よこやま のりこ〕―国際交流基金日本語国際センター

 

参考文献:
横山紀子・木谷直之・簗島史恵(1998)「非母語話者日本語教師の日本語運用力の分析:海外日本語教師短期研修生を対象に」『日本語国際センター紀要』第8号 pp.81-94
Yokoyama, Noriko & Arakawa, Yohei (1998) "Proficiency Analysis of Non-native Japanese Language Teachers." 32nd Annual Meeting of the American Council on the Teaching of Foreign Languages. Chicago, Illinois.