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OPIを授業に生かす 第13回

<活用編 8>

OPIによる学習者の追跡調査結果の利用

深谷 久美子、渡辺 摂

 OPIの活用編として、OPIが実際に日本語教育機関でどのように利用されているのかを紹介しています。今月はその8回目。OPIの調査結果を、学習者の上達のためにどのように利用していったらよいのか、主に初級〜中級レベルの具体例を挙げながら紹介します。
 

 ACTFL-OPIの判定においては、インタビューを受けた学習者がどこで、どんな教科書を使って、どう教えられたか、どのように学習したかはまったく問わない。学習者へのインタビュー時点において、そこで表れた学習者のパフォーマンス自体を判定する。

 それゆえ、OPIを受けた学習者がもっとできるはずなのにとか、こんなによくできるとは思えない、というような感想を、学習者の教師は抱くことがある。また、普段、近しく接していても、学習者の話をテープに取り、詳細に検討したことがなければ、一見して(一聴して)わかることにだけ目(耳)を奪われがちである。発音、イントネーション、文法などは、日本人であればすぐに間違いがわかる。しかし、今まで連載されているように、OPIの評価基準はさまざまな領域にわたるため、より学習者のレベルが明らかになる。

 今回は誌面の都合上、上級までは言及できないが、主に初級〜中級レベルの学習者の上達をOPIを行うことによって検討する。例はテープを文字化しているため、発音、イントネーション、流暢さ、あいづちなどをうまく再現できないことをご容赦願いたい。

 インタビューを受けたのは以下の3人で、いずれも初来日の学習者である。

 
国籍
1回目
2回目
3回目
A
台湾
99年2月1日
5月24日
2000年1月25日
(初級-上)
(中級-下)
(中級-中)
B
イギリス
99年9月24日
11月18日
2000年1月24日
(初級-上)
(中級-中)
(中級-中)
C
オーストラリア
99年3月23日
2000年1月19日
-
(中級-下)
(中級-上)

 

1.初級から中級へ

 まず、Aの1回目と2回目を比較してみよう。1回目では質問にすぐに答えられないため、3秒以上の沈黙が10回以上あったが、2回目ではそれがなくなり、「うーん」「えー」などで間を持たせるようになった。また、自己紹介が「私は〇〇です」から「私は〇〇と申します。台湾から参りました」に変わるなど(丸覚えの可能性があるが)、進歩は随所に見られた。まず大きな進歩は、談話の型が単語から文へ変わったことである。

(I:インタビュアー)

例1 I: 一人で住んでいますか。
1回目A: 一人です。あーいいえ、わたしとお姉さん。
2回目A: いいえ、姉と一緒に二人で住んでいます。

 

例2 I: 東京はおもしろいですか。
1回目A: おもしろい。
2回目A: おもしろくて……おもしろいです。でも、日本の物価が高いし、外国人が住みにくいです。

 1回目では、質問に対する答えは、例にあるように、単語あるいはそれに「です」がつく程度の単純な文で、長くても「きのうはうちで映画を見ます」「いいえ、小さいアパートです。でもきれいです」程度の文が数回見られるだけであった。しかし、2回目になると、難しい話題では単語の羅列になってしまうものの、「文」の数が格段に増え、「〜し〜し」「とき」「から」「たら」「〜たり〜たり」などを使った複文も現れるようになっている。接続詞は「でも」以外は見られなかったのだが、例2の2回目にもあるように、2つ以上の文を続ける答えがずっと増えている。

 次に見られる進歩は、自発性の現れである。例2にあるように、日本の印象を問う質問に対して、1回目では「おもしろい」と答えただけであったのが、2回目ではそれに「でも、物価が……」と付け加えており、自発的に話を展開させる力がついてきている。これは、ACTFLの評価基準で中級に必要な特質とされている自発性が、十分に発揮されているということである。

例3 I: きのうは日曜日でしたね。何をしましたか。
A: きのうはうちで……映画を……見ます。
  I: どんな映画ですか。
 A: アメリカの映画。
I: おもしろかったですか。
A: おもしろい映画です。
I: 映画が好きですか。
A: 好きです。
I: ほかにどんなものが好きですか。
A: ………………(沈黙)

 これは1回目の応答であるが、どんな映画か→アメリ力の映画、おもしろいか→おもしろい、映画が好きか→好き、と質問に単純に答えるだけが精いっぱいである。つまり、コミュニケーションはインタピュアー主導によるものであり、相互作用、やりとりといったものがないのである。

 ところが、2回目になると単純に質問に答えるだけでなく、自発的な発話が加えられている。

例4 I: 大きい町と小さい町とどちらのほうがいいですか。
A: 小さい町です。わたし、小さいころ、いつも台北住んでいました。でも、今田舎大丈夫、わたし、行きたい。住みたい。静かし、空気がいいです。台北は、台北で、空気が悪いし、水が悪い。(以下略)

 このように、大きい町に住むのと小さい町に住むのとどちらがよいか、という質問に、「小さい町です」と答え、質問者の「どうして?」を待たずに、自ら言いたいことを述べている。これは1回目と2回目の大きな差であるといえよう。

 そのほか、2回目では、単純な日本と台湾の比較、将来の夢など、1回目ではできなかった話もできるようになり、話題にも進歩が見られたが、まだ中級の条件を満たすことで精いっぱいである。

 それでは、来日2カ月で初級−上から中級−中に判定された学習者Bについてはどうだろう。

例5 I: サッカーのポジションはどこですか。
1回目B: まんなか、まんなかの右、あーあー。
 2回目B: うん、まだ試合に出られない、出られませんけど、わたしのポジションは真ん中です。真ん中の右です
I: 真ん中の右はどんなことをしますか。
1回目B: あーなんもします。あーあーあーあーあー、大切なところです。
 2回目B: 真ん中の選手はなんも、何の仕事でもいいです。ちょっと大変なポジションです。

 このように、Bも同じく1回目は単語の羅列や、すんなり言葉がでないことが多かったが、2回目になると、聞かれたこと以上に積極的に話す姿勢がうかがえる。

 次の例6と7は、Bに限ったことではないが、初級の学習者にしばしば見られる、質問と答えの形式が合っていない現象である。

例6 I: イギリスのどこから来ましたか。
B: あーあー私は〇〇に住んで、住んで、住んでいました。

例7 I: ハイキングはどんな所に行きますか。
B: 〇〇にハイキングする好きです。

 この1回目に見られた食い違いは、2回目にはまったく現れなかった。

 

2.中級−中へ

 さて、Aの2回目と3回目、Bの1回目と2回目を比べてみよう。

 Aは残念ながら、思ったほどの進歩は見られなかった。なめらかさは上がっているものの、例えば、「(妻が仕事をすることに反対する男性は)前たぶんいる。でも今大丈夫。男も仕事する。女も仕事する。それは大丈夫。お互いに。」のように、一応、文を続けているが、接続が未熟で、ぶつ切れの印象から逃れられない部分がまだまだ多い。ただ、連文の部分は2回目より明らかに増えており、一つひとつのまとまりも長くなっているなど、進歩も見えている。

 ACTFLの上級の条件に「説明・描写が詳細にできる」というのがある。2回目では説明を求める質問を幾度か試みたが、ほとんど答えになっていなかった。それに比べると、3回目では、要領が悪く未熟ではあるものの、例8のようにある程度はできている。

例8  事件の説明(3回目)
A: どうしてその子どもは殺すは彼女のお母さんは実は二人仲があまりよくない。でも子どもたちは仲がとてもいい。住んでいるところはとても高級なところ。だから、みんな話すとき、たぶんちょっと自分とほかの人比べて、もし彼女はちょっと低い、低かったら、ちょっと悪口じゃなくて、きついこと言う。

 Aの説明に続いて、以下はBの描写である。

例9 I: お母さんはどんな人ですか。
1回目B: 母さんは、母さんは、サラリーマン会社、仕事が終わったあとで、家に帰りて、あーあータ食をつかいます。
2回目B: はいはい、説明しにくですけど、あーお母さんはうーん、お母さんは料理の研究、研究員で勤めています。彼女は50歳くらいです。えーじゃ、彼女、髪は私の同じ色ですね。えー彼女はおとうさんと弟と〇〇の近くに住んでいます。

 Bの、1回目(初級−上)から2回目(中級−中)への2カ月の進歩がよくわかる。描写に幅ができたのである。また、Aの3回目では、2つのロールプレイ「友達を映画に誘う」(OPI中級レベル)、「ホテルのシャワーの故障の修理を求める」(上級)を行ったが、友達には「午後ひま?」「一緒に映画に行かない?」など、くだけた表現を使い、ホテルのフロント相手には「こちら〇〇室です。シャワーをちょっと出ないですが……ちょっと修理していただけないでしょうか。」など、丁寧な表現を使うなど、相手によって必要な使い分けを試みていた。これはOPIでは超級の要素であるが、習い覚えたものをそのまま使っている。中級の学習者は上級のことだけではなく、非常にまれであるが、超級のことができることもある。だからといって、無理なくどんな場面でもその機能を駆使できると考えるのは早計であり、そのことだけで上のレベルと判定することはない。

 Aの2回目から3回目の進歩をみたが、1回目から2回目と比較して、学習時間が増えているにもかかわらず大きな変化は見られなかった。OPIの判定も、2回目では初級−上から中級−下に上がっているのに対して、3回目では中級−中に留まった。つまり、量的には拡大しても、質的には変化がなかったといえる。

 Bは1回目、2回目、3回目のインタビューの期間がそれぞれ2カ月と短期間である。1回目と2回目には長足の進歩が見られたが、3回目には誌上で再現するほどの見るべき進歩はなかった。結局、二人とも中級−上には至っていない。すでに何度も述べられているが、OPIの評価基準では、「−上」というのはその上のレベルのことが半分以上できることであり、「−中」と質的に違いがある。量的拡大だけでは「−上」と判定できないのである。だが、学習者Cには、中級−下から中級−上へと、それが見られた。

 

3.中級−上へ

例10 I: 趣味は?
1回目C: サーフィン、スノーボードが大好き、でも、読む、音楽……。
 2回目C: ぼくの趣味は、いろいろの趣味があるんだけど、いちばん好きなのはサーフィンとスノーボードするとか、うーん、遊ぶことが好きし、旅行、大好き。
I: 食事は?
1回目C: みんな好き。和食、洋食、中華料理、イタリア料理と全部好き。
 2回目C: 食事はねえ、5人で台所をいっしょに使うんだけど、ぼくはほとんど、たぶん週1回2回、食事を作るんだけど、ほとんど外食をします。

 なめらかさも増し、極めて自然な発話になってきた。1回目のアルバイトの説明では「えっと、ウェイターとかバーテンと、あーてん、てんのこと、マネージメント、メニュー、メニューをかけるのこと、ワインリストを書く、書いたり、レストラン小さいだから、仕事は全部。」であった。

 しかし2回目で、オーストラリアの大学では専門を2つ持てるかを問うと、「みんなではないけど、申し込んでみんなできます。ほとんどはビジネスとか日本語だけ、でも、ぼくはビジネスだけとか日本語はちょっと狭すぎるだから、両方したかった。」となった。また勉強は大変ではないかと問うと、「そうでもない。というのは、ずうっと日本語を勉強するのはつまらなくなる。ずうっと経済を勉強するのもつまらなくなる。だから、両方勉強すると、面白いと思いました。頭が古くならないし」のように、語彙に少々問題はあるが、自分の考えとその理由も、完全とは言えないまでも述べられるようになった。さらに「〜けど、〜で、〜ます」「〜、でも、〜から〜。というのは〜。だから〜、〜と、〜し」「〜けど、〜から、〜」など、単純な複文だけではなく、段落がいくつか見られるようになっていて、文の結束にはコソアドも出現した。

 以上、OPIによって学習者の会話力の上達を検討したが、それでは、これらの結果をどのように学習者指導に結びつけたらいいのだろうか。

 

4.上級への指導

 学習者は、中級−中のように実際には上達しても、むしろ上達しないことへのいらだち、焦燥感を感じる場合が結構ある。それをどう克服し、説明するかが、教師の課題となる。その方策の一つとして、
・初期のテープを聞かせる
・初めのテープと中級になったテープの文字起こしを見せる

 自分のテープを聞かせて、学習者の答え方がより自然になっていることに気づかせ、上達を納得させると同時に、上級になるための問題点を教師と学習者でいっしょに考える。まず、学習者自身にどこが問題かを考えさせることが大事で、それに対して教師がアドバイスする。教師側からは初めから解決方法を与えず、まず気づかせる。同じ手法を用いて行った会話であるので、納得させやすい。「永遠の中級」という言葉がある。かなり長い時間学習しても上級になれないことであるが、学習者がそうならないように、時には教師の適切なカウンセリングが必要である。

 ACTFLの評価基準は口頭能力の評価のためだけではなく、到達目標としても十分に役立つ。教師側がこの基準を十分にわかっていて、学習者に足りない点を指摘し、その克服や補う方法などを明確にすることで、学習者自身の自覚にもつながり、より今後の学習者の指針にもなるだろう。

 もちろん、ACTFLの評価基準が絶対ではないし、いろいろ議論もあるところである。しかしながら、現時点において、これに取って代わる口頭能力判定の客観的基準がない現状では、OPIで学習者の口頭能力を判断し、それを到達目標にするのは、妥当で、有効であるといってもいい。

 

〔ふかや くみこ〕−成蹊大学国際交流センター専任講師
〔わたなべ せつ〕−成蹊大学国際交流センター非常勤講師