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OPIを授業に生かす 第16回

<調査編 3>

典型例に見る中級話者の発話の特徴

米田 由喜代

 今月は、OPIの調査編3回目です。日本語教師が教育の現場で接することが圧倒的に多いのが「中級」の話者。実際に行われた、中級話者の典型例と思われるOPIのインタビューテープの分析を通して、中級話者の特徴について紹介します。

 

 日本語教育の現場で接する学習者は、やはり中級話者が圧倒的に多い。そこで、実際に行ったOPIのインタビューテープの中から、中級の典型例(注1)といえるテープを取りあげて、その中に見られる中級話者の発話の特徴を追ってみよう。中級の「−上」「−中」「−下」に「初級−上」「上級−下」を加え、計6本のテープを比較しながら見ていく(表1)。なお、この典型例から見た中級話者の発話の特徴については、分析の結果をすでに論文にまとめているので、詳しくはそちらを御参照いただきたい(注2)

表1 典型例の被験者とレベル

被験者
レベル
出身地
性別
A
初級−上
ギニア
B
中級−下
台湾
C
中級−中
イギリス
D
中級−中
マレーシア
E
中級−上
オーストラリア
F
上級−下
韓国

 OPIで口頭能力を判定するときに最も重視されるのが、「言語を使って何ができるか」という総合的タスク能力である。そこで、インタビューの中でもタスク能力がわかりやすい形で現れるロールプレイを中心に、被験者がどのようにコミュニケーションタスクを遂行し達成しているか、また達成できないかを具体的に見ていこう。

ロールプレイの内容と結果

 OPIでは、「初級−上」〜「上級−中」と判断される被験者には必ずロールプレイが行われる。典型例の各被験者には、表2のようなロールプレイのタスクが課せられた。

 タスクはその難易度から、宿泊の手配や食事の注文などの旅行者が遭遇するような場面で簡単なやりとりで達成される中級向きのもの、物事が円滑に運ばないようなトラブル発生場面で複雑なやりとりが必要な上級向きのもの、フォーマルやインフォーマルな場面で言語的に不慣れな状況に対応する超級向きのもの、に分けられる。

表2 ロールプレイのタスク

被験者
タスク
内容
A
A1
電話で友だちをパーティーに誘う
B
B1
電話で友だちをパーティーに誘う
C
C1
C2
飛行機に乗り遅れ、次便を交渉する
社長に電話で遅刻を詫びる
D
D1
D2
電話で先生をコンサートに誘う
泥棒に入られ警察に電話で通報する
E
E1
E2
注文取り違え品の取り替えを依頼する
飛行機に乗り遅れ、次便を交渉する
F
F1
F2
F3
自分の都合で追試を先生に頼む
ガラスを割って逃げる子供を説得する
歓迎会での自己紹介のスピーチする

 各タスクの達成結果は表3のようになった。「初級−上」のAは中級向きのタスクに対応できなかったが、中級以上の被験者B〜Eは中級向のタスクを達成している。さらに、「中級−中」のC・Dは上級向きのタスクにも不十分ながら対応し、「中級−上」のEと「上級−下」のFは上級向きのタスクを達成している。

表3  ロールプレイのタスクの結果

被験者
タスク 難易度 評価
タスク 難易度 評価
A
A1  中級  ×
 
B
B1  中級  △
 
C
C1  中級  ○
C2  上級  △
D
D1  中級  ○
D2  上級  △
E
E2  中級  ○
E1  上級  ○
F
 
F1  上級  △
 
 
F2  超級  ×
 
 
F3  超級  ○
(○:達成 △:何とか達成 ×:達成できず)

 

タスクへの対応

 では、各被験者の対応はどうだったのか。対応の違いから中級の特徴を見てみよう。まず、A・B・Dに共通の、中級向きの「人を誘う」タスクを比べてみる。(タスクA1/B1/D1)。

 電話で名乗ったあと、次のように話している。

A (A1) 初級−上(A:被験者A R:テスター)

A: 今は試験はあります?
R: 試験?
A: あー
R: あー、試験はありません、もう終わりました。
A: いず、忙しいですね?
R: ううん、今あんまり忙しくない。
A: うーん。今、私は(うん)えー[沈黙]、あと、あなたは(うん)パーティーへ行きます、行きました?
R: はあ、パーティー?


B (B1) 中級−下

B: 今週の土曜日、私はパーティーを行いたいですから、(ええ)うーん、あなたいらっしゃいますか。
R: あー、ありがとう。今週の土曜日?
B: うん。
R: 何時から
B: うーん、朝、10時から(あ、うん)夜、たぶん11時まで。


D (D1) 中級−中

D: あ、こんにちはー。(はい)あのー、あのー、来週の日曜日(はい)[沈黙]、暇ですか。
R: はい、暇ですよ。
D: あのー、リチャード・クレイトンマンの(ええ)んー、コンサートきいたこと、あー、来週の月曜日、(ええ)東京、東京でやります、聞いたます、きき、聞きましたか。
R: あー、リチャード・クレイマンの?
D: はい。
R: コンサートがあるんですか。
D: はい(あー、そうですか)あのー(ええ)一緒に行きたいんですけど、(ええ)、んー、どうですか。

(1)誘いを示す機能表現が使える

 サバイバルではまず相手に誘いと理解される機能表現が言えるどうかが問題となる。A1では、どんなに好意的な相手でも誘っていると理解するのは困難だろう。Bは「いらっしゃいますか」と、理解しようとするテスターの努力に頼ってはいるが、誘いと受け取れる表現を使っている。Dはだれでも誘いとわかる表現を使っている。中級では機能表現が使える。

(2)自然に話を切り出し、進め、終わらせることができる

 Aは自然な切り出しをしようとしているが、意図を表現することができなくて理解されず、切り出しとして機能していない。Bは切り出し方の唐突さが目につく。Dは自然に切り出して、誘いに話を進めている。サバイバルでは、Bのように切り出し方は唐突でも機能表現ができれば、タスクは何とか達成されるが、相手とよいコミュニケーションを取って交渉を円滑に進めるためには、「中級−中」のDのように自然に話を切り出し、進め、終わらせることが重要になるだろう。

(3)自分から話を展開する

  Aは自分から話を展開しようとするが、理解されず、語句を聞き返されることが多くて、話が意図どおりに展開するには至らない。Bはロールプレイを課せられて、はじめの誘いだけは自分から言ったが、その後の時間・場所等の情報はテスターに聞かれて答えるという形で出している。対応が受け身的で、好意的な相手に頼ってやっとタスクが達成されている。Dはコンサートの場所の情報を言い、自分から待ち合わせを提案し、自発的に会話の主導権を取って相手と対等に話を進めている。このように、「中級−中」からは、自発的な対応が見られるようになる。

(4)自分で文を作り出して、意図を示す

 A1のタスクではAが、「相手の都合を聞く」「誘う」などの意図を、自分で文を作りだして表現できないために、テスターに理解されない点が注目される。ロールプレイのタスク達成には特に質問することが重要だが、Aは覚えている語句をイントネーションで質問に変えているだけで、疑問文が見られない。これに対し、B、Dは簡単な文を自分で作り出して、はっきり、質問の形で意図を示している。

 ここで、参考のために、インタビュー全体を通して、各被験者がどの程度、文を作って話しているか、量的に見てみよう。インタビュー中の各発話にどれぐらい自分で形作った文が現れたか、その平均値を、図1に示す。図1 1回の発話に現れる「文」

 Aでは1回の発話の28%しか文で話していないが、中級になるとBで70%とぐんと増え、「中級−上」のE以上では発話のほぼ90%が文になっている。量的に見ても、中級では、自分なりに知っている語句を組み合わせて文を作り出せる、つまり意図を伝えるために自分で言語を創造していると言えるだろう。

(5)物事の状況・経過等の説明ができかける

 上級のタスクでは、物事が規則通り運ばない状況が設定されるので、単に頼んだり、詫びたりするだけではなく、状況を説明する必要が出てくる。C2とE2で飛行機に乗り遅れた場合の説明を比べてみよう。

C (C2)(中級−中)

C: あの、私が、シカゴで、シカゴのkuukiで、私の飛行機を待っていますけど、(はい)ちょっと問題あるかもしれません。
R: はい、どうしたんですか。
C: 多分、あー、私の飛行機が、あー、出発、もう出発しました。


E (E2)(中級−上)

E: えーとー、けさの、えーとー、札幌行き、(はい)えっとー、8時の飛行機の(ええ)予約持ってましたけど、間に合いません。

 Cの説明が語句の不適切さと繰り返しのために回りくどくて不明確になっているのに対し、Eは「間に合いません」のところに間違いはあるものの、事情を端的に明確に説明している。「上級」のFは、試験を休んだ事情や、自分のこれからの行動を短く明確に話している。

F (F1)上級−下

F: あ、すいません。きのうちょっと体の調子が悪くなって、受けなかったんですけど、すいません。
F: そしたら、ま、みんなで話し合って、また来ますので、よろしくお願いします。

 このように、「中級−中」では、事実経過を明確に説明することはまだ難しく、「中級−上」から一部できるようになる。

 この説明の明確さは、語彙の多さと文構成の複雑さに大きく負っている。各被験者がインタビュー全体で話した文の構造を、単文か複文かで見ると、「初級」ではほとんど単文、「中級−下」で複文が全文中17%使われるようになり、「中級−上」で30%、「上級」では45%以上、複文が使われている。複文の構造も連用修飾節、連体修飾節、引用節などの節が、「中級−中」以上では組み合わせて使われて、「上級」では3つの組み合わせも見られ、複雑になっていることがわかる。

(6)会話ストラテジーを使いはじめる

 CはC1で、相手の「満席」という言葉がからずに挫折を起こして、会話が中断している。このように「中級−中」以下では、言葉がわからなかったときも、ただ言葉や表現を繰り返して相手に助けを求めるだけで、積極的な聞き返しやほかの表現での言い換えるえなどのストラテジーを使って会話を続ける例は見られない。

 一方、「中級−上」のEは、レストランで注文とは違う料理の取り換えを頼むタスク(E1)で、「取り換える」という表現を使えなくても、そのかわりに「すいませんけど、牛肉そーば、頼まなかったから」「えー豚肉ぎょうざにしましたから、ちょっと」「あー、僕は牛肉食べませんから」と自分の状況を説明することで相手にこちらの意図を察してもらったり、「どうしましょうか」と相手に対応を委ねたりするというストラテジーを使ってタスクを達成している。

(7)相手・状況による表現の使い分けは断片的

 D1のタスクはサバイバルとしては達成されたと判断できるが、先生を誘っているのに、「聞きましたか」「一緒に行きたいんですけど、どうですか」と話し、当然期待される敬語表現は出ていない。

 C2でもCは、社長を「いらっしゃいますか」と敬語で呼び出してはいるが、遅刻を詫びるのに「ごめんなさい」と社会言語的に不適切な表現を使っている。中級では、敬語は定型的な表現では現れるが、誘いや詫びなどの機能表現では出ず、自分で相手や状況に合わせて表現を使い分けることはできていない。

タスクをうまく達成するために

 ロールプレイでの対応から、タスク能力を上げるための以下のポイントが見えてきた。

 まず、初級から中級へ、つまり日本語でうまくサバイバルできるようになるためには、
 (1) 誘い、依頼、詫びなど、日常よく使う機能表現を身につける。
 (2) 自然な話の切り出し方、進め方、終わり方をマスターする。
 (3) 相手に聞かれたことに答えるだけではなく、自分から話を展開し、主導権を取る。
 (4) 自分で文を作り出して、質問したり、答えたりする。

 さらに、中級から上級へ、つまり、トラブル 発生状況へのうまい対応を目指すには、
 (5) 今の状況や経過などを、複文を使って詳しく正確に説明できるようにする。
 (6) 言葉・表現がわからなくても切り抜けられるよう、聞き返しや言い換え、遠回しに言うなどの会話ストラテジーを身につける。
 (7)相手・状況によって言葉、表現、話の進め方を変えることを意識し、使い分ける。

 このタスク能力を高めるためのポイントは、中級話者に対して日本語教育を進める上でも、一つの目安になるだろう。

注1)この典型例は、7人の認定を受けたテスターが、ACTFL-OPI試験官養成マニュアルに書かれた各レベル・サブレベルの特徴を備えていることを基準として、数多くのテープから選んだものである。

注2)伊藤とく美・荻原稚佳子・北澤美枝子・齊藤眞理子・堀歌子・増田眞佐子・米田由喜代(1996)「日本語中級話者における発話分析−ACTFL-OPI基準の具体化を求めて」『JALT日本語教育論集』第1号

 

〔よねだ ゆきよ〕―大阪大学留学生センター非常勤講師