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OPIを授業に生かす 第17回

<調査編 4>

典型例に見る上・超級話者の発話の特徴

荻原 稚佳子

 今月、紹介するのは「OPIを授業に生かす」調査編の最終回です。先月に引き続き、実際に行われたOPIインタビューのテープの分析を通して、その発話の特徴について紹介します。今回は、上級・超級話者の典型的と思われる例を取り上げ、具体的な特徴を見ていきます。

 

 前回に引き続き、OPIの上級の上・中・下および超級の典型的な話者を選び、その発話の分析から、上級・超級の具体的な特徴を紹介する。データ収集方法などについては前号の説明を参照されたい。テープの被験者を表1に示す。

表1 被験者の背景

被験者
レベル
出身地
性別
A
上級-下
韓国
B
上級-下
インド
C
上級-中
韓国
D
上級-中
アメリカ
E
上級-上
香港
F
上級-上
タイ
G
超級
中国
H
超級
韓国


OPIの基準

 OPIの基準については、テスター養成マニュアルに詳しく解説されているが、今回は、話題・機能・テクストの型に関係するいくつかのポイントに焦点を当て、上級、超級の具体的特徴を明らかにする。中級との比較も含めて、上級・超級の話題・機能・テクストの型についてのOPI基準を簡略化した形で表2にまとめた。

 ただし、これは各レベルの話者が持っている言語能力の一部分であり、これらの項目のいくつか、または、すべてができたからといって、そのレベルの話者とは言えないので、注意が必要である。

表2 中・上・超級レベルの基準(一部)

   テキストの型 話題 機能
中級 日常生活上の具体的話題 サバイバルできる
上級 段落 具体的・事実に基づく社会的関心事 叙述や描写ができる
超級 複段落 具体的・抽象的話題 詳述・仮説・裏付けある意見が言える


どのような話題について何が話せるか

 インタビュー中に、被験者はテスターから説明や描写を求められるが、それらの話題は、身近な話題(趣味、仕事、予定など)から、具体的で一般的な話題(映画の内容、大学生活について、母国との比較など)、そして、より社会的で抽象的な 話題(教育制度、環境問題への意見、経済状況の説明など)まで多岐にわたる。

 超級では、これらのすべてについて、意見や詳しい説明が述べられるが、上級では、具体的な事実を伝えたり、ある程度の長さの叙述ができればいい。そこで、上級と超級の違いがいちばんはっきりと出る、社会的で抽象的な話題について意見を述べている例で比較してみる。

 <抽象的な話題について意見を述べる>

 まず、B(上級−下)が環境問題について述べている例を見る。

B: そうですね、あの、いろいろなこと。あのー、例えば、あの、タクシーですね。(はい)あのー、道で止まったとき(はい)、昼頃ですね。(はい)みんなタ、タクシーの運転手たちは、うーん、昼ご飯食べてから、タクシーのエンジンをオンして、そのまま、あの、寝ますね。(はあはあ)それで石油も、あのー、もったいないですね。(ええ)また環境にもあまりよくないです。
 また、いろいろな××、見た、また、ゴミ問題ですね。と、いろんなwrappingですね。ツ ツ、ツツ。
R: はい、包み紙ですか?
B: 包み紙や、とても日本の包み方はとてもきれいです。(うーん)でも、そんなにしなくても(ええ)きれいの、きれいにすることができると思います。(はあはあ)だから、うーん、また、あの、recyclingしたり、(はい)いろいろなこともして、もっと環境にいいことはできる。ちょっと日本語で、あのー、そこまでは説明できないです。

 聞き手は、この発話を聞いて、Bの環境問題に対する意見がはっきりわかっただろうか。まず、途中で言い直しがあり、意味が取りにくい部分がある。スムーズに話していながら、このような聞きにくさが残っている。

 それに、具体例のタクシーや包み紙については、「もったいない」「そんなにしなくても」と感じていることはわかるが、環境問題全体については、「もっと環境にいいことはできる」と言うだけで、あまりにも漠然としていて明確な意見がつかめない。このように、社会的で抽象的な話題について、個々の具体例を挙げるだけで、まとめの言葉がなかったり、説明が足りなかったりするために、漠然とした意見しか言えない。

 また、最後に「日本語でそこまで説明できない」と発言しているように、明らかに話すのが難しいということが、聞き手にわかる。

 以上のように、言い直し、漠然とした意見、困難の現れが、上級の特徴の一部として認められる。この特徴は、社会的な話題について述べる場合に、上級で多く見られる。上級−下では、身近な話題や、映画の筋を説明するなどの具体的な内容について述べる場合にも見られることがある。

 <具体的な例 vs 抽象的な説明>

 次に、Bの意見にどのような裏付けがあるかに注目すると、タクシーのアイドリングは「石油がもったいない」ことと包み紙は「そんなにしなくてもきれいにできる」ことが裏付けになっている。つまり、上級での裏付けは、具体的な例を羅列することでなされる。

 それに対して、香港返還に対する意見を求められたG(超級)の例を見てみよう。

G: はい、とても複雑な気持ちですね。あのー、私はもう、今、だから中国人ですけれども、実際全然中国に住んでないし、仕事も中国語を教えているだけで、付きあっている相手も日本人が多いんで、だから香港に対しては、やっぱり何重人格もあるということ、自分自身でね、いろいろな人格を持っているような気がするんですねー。(以下省略)

 Gは、この後、中国人・香港人・日本人、それぞれの立場からの考えを述べている。このように、「実際に中国に住んでいない」などの具体的な事実を挙げた後に、「いろいろな人格をもつ」「何重人格もある」などの抽象的な表現でその状況をまとめて、さまざまな立場から意見を述べることの理由としている。

 このように、具体的な例だけでなく、抽象的な内容を抽象的な語彙・表現を用いて説明できるのが、超級の特徴である。

まとまった話ができる

 さまざまな話題について説明したり、描写するためには、短い文だけの発話で内容があることを話すのは難しく、ある程度の長さが必要となる。そこで、「段落」「複段落」に注目してみる。

 <「段落」「複段落」とは?>

 被験者の故郷がどんな所かを尋ねられ、ほかの町と比較しながら説明している例を見てみよう。

A(上級-下)の例

A: まあ、結構大阪市よりは広いですね。まあいろいろなものもあるし。

 Aは、大阪と比較して、広くていろいろあるという事実を単純に並列的に述べているだけで、内容的にそれ以上の詳しい説明がない。そのため、話の展開も見られない。

F(上級-上)の例

F: あ、そうですね。バンコクの方がずーっと繁栄ですか?繁栄してますので、で、あの私の子ども、小さい頃はトンブリはあんまり人が住みたいと思わないですね、何か、田舎っぽいというイメージがあったんです。(ええ)でもこのごろは急に、あの、いろいろ経済とかは発展していて、で、人が多くなったりして、あのいろいろデパートもいっぱい、あそこに、何ですか、うん、広がる、広がりましたというか。だから今あまり変わらないです。(あーそうですか)土地も高い、土地も高くなりますし。
R: あー、そうですか。やっぱり都市化が進んでいるんですね。
F: ええ、だからあんまりバンコクと変わらないですね、今は。

 Fの例では、内容的には、故郷の町をバンコクとの比較をしており、トンブリという町の昔と今の様子を、経済発展、人口増加、デパート進出、土地の価格変化の具体例を挙げて説明し、最後に「だからバンコクと変わらない」と結論づけている。
構成的にも、

(バンコクとの比較)→(昔の様子)→(変化の様子)→(結論)

と一つのまとまりを見せている。

H(超級)の例

H: うーん、どんな町、東京とあんまり変わらないんです。たい〔大〕都市というのは全部そうかなと思うんですけど。(ええ)大きなビルが多くてやっぱり何か商業の中心地でもあって、また政治の中心地というか、国会議事堂などがありますから。(ええ)
 うーん、それであと、あの、韓国の人口が4,200万ぐらいだと思うんですけど、その中で4分の1がソウルに集まっていますから、(ええ)やっぱり混雑していますし、ラッシュアワーなど大変だし、(ええ)空気もやっぱりきれいじゃないし、まー、だいたいそんな、普通の都市だなと言う感じなんですね。(あ、そうですか)
 木が多いわけではないし、海辺が、海辺もやっぱり近郊の方に出ればあるんですけど、(ええ)近いところにはないし。山はちょっとあるんですけど、(はい)はい。
R: あー、じゃあ東京と本当に似ていますね。
H: ああ、そうです。

 Hの例では、東京との比較をしているが、初めに「東京と変わらない」という結論を述べた後、大都市の役割の観点から、ソウルが商業・政治の中心であるということを国会議事堂があることなどの具体例を入れながら述べている。次に、「それであと」と内容を付け加えることを示した上で、大都市の環境の観点から、人口集中、人口過密、空気汚染について説明し、さらに、周辺の自然環境の観点から、海・山について説明している。最後は「はい」だけで発話の終わりを示しているが、説明を聞いたテスターが、さまざまな観点で東京との類似性を知り、思わず「本当に似ていますね。」と感想を述べている。つまり、内容的に複数の観点から説明することで、多面的描写がなされている。

 全体の論理展開は、各観点ごとに具体例をあげて内容を説明しているので、それぞれに話のまとまりがあり、それらが並列的に構成されている。

 Aの例のように、内容的に単純で、詳細な説明がなく、切り出しや結論、まとめのような展開が見られないものは「段落」とは言えず、Fの例のように、内容的に詳細な説明があり、構成面でもまとまりのあるものが「段落」だと考えられる。Hの例のように、複数の観点からの内容説明があって、それらがある関連を持っていて、段階的な展開があるため、内容的にも重層的な厚みがある発話が、複数の段落からなる「複段落」であると見なされる。

<どの程度「段落」「複段落」が作れるか>

図1 段落、複段落の産出割合

 インタビュー中に、各話者がどの程度「段落/複段落」で話をしているかを、数量的に見てみよう。テスターから、「どんな?」「どう?」などと質問され、何かを説明・叙述するよう要求された場合、どの程度「段落」または「複段落」の形で答えているかを分析した結果が図1である。

 多少の個人差はあるが、「どんな?」「どう?」などの質問に、上級以上は、30%以上「段落」または「複段落」で答え、上級−上では60%以上、超級では90%以上になる。また、「複段落」のみに注目すると、Bのようにやや段落構成力の高い被験者もいるが、上級−中レベルまでは、30%以下である。上級−上と超級は、30〜50%の割合で「複段落」を作れることがわかる。

 OPI基準で、上級は「段落」で話せるとなっているのに、「段落/複段落」を作る割合が30%以上というのは、一見低い数値に見えるかもしれない。しかし、インタビューでは、超級話者に期待されている抽象的な社会問題に関する話題について、上級者に対しても多く質問され、その場合、「段落/複段落」の形で答えるのは難しいからであると判断される。また、たとえ具体的で一般的な話題であっても、その話題にあまり関心がない場合、関係する語彙や表現を習得していない可能性もあり、すべてを「段落」以上で話せるとは言えない。それに対して、超級話者は、幅広い分野の話題について一様に話せるだけの、豊富で多様な語彙力・表現力を持っていると言えよう。

上級・超級の特徴から考える学習ポイント

<明確な意見を言うために>

a. 意見を文章にして推敲を重ね、明確な意見にした上で、発表する。意見の内容がはっきりわかって、相手が納得できるまで、聞き手に質問してもらう。その後、また文章にしてみる。

<段落・複段落を作るために>

b. 文と文、段落と段落の関係に注目して、接続詞が適切に使えるようにする。
c. どんな話題でも、意見を述べるとき、どうしてそう思うのかという理由を複数挙げてみる。
d. ほかの人の違う意見に反論することで、異なる視点・観点からも意見を言ってみる。

<抽象的表現が使えるようにするために>

e. 一般的な話題について話すとき、今使っている言葉をなるべく漢語に変えて話してみる。
f. 読み物、新聞、ニュースなどで、漢語や抽象的な語彙・表現を幅広く身につける。


参考文献:
伊藤とく美他(1996) 「日本語中級者における発話分析--ACTFL-OPI基準の具体化を求めて」、"JALT 日本語学習・日本語教育論集"第1号、PP79-99, JALT 日本語教育研究部会 
Swender,E.ed.(1999) ACTFL Oral Proficiency Interview Tester Training Manual, Hastings-on- Hudson, NY:ACTFL


〔おぎわら ちかこ〕―早稲田大学国際教育センター非常勤講師