OPIを授業に生かす 第1回

<解説・理論編 1>OPIとは何か (1999年4月号)

北澤 美枝子

 会話能力測定テストの一つ、ACTFL-OPIとはどんなものなのか-。この連載では、「日本語OPI研究会」のメンバーを中心とする執筆者陣が、「解説・理論編」「活用編」「研究編」に分けて、いろいろな角度から紹介していきます。「解説・理論編」では、OPIテストの背景、評価基準の内容などを説明します。

はじめに

 学習者の会話の能力をいかに伸ばすか、いかに測定するかは、語学教師にとって大きな課題である。発話能力を育成するための単発的なタスクはすでに数多く開発され実際に活用されているが、口頭能力測定および熟達を目標とした体系的な教室活動のあり方に関しては、まだ断片的な知識にとどまっているという声も聞く。

 外国語学習者のための口頭能力測定に関する分野で先駆者的な役割を果たし、文献や研究発表等でも頻繁に言及されているのは、ACTFL-OPIと呼ばれるものである。

 シリーズの初回である本稿では、1) テスター(試験官)になるための課題、2) テストの手順とレベル判定、について紹介し、最後に、私自身の感想を述べることにする。

■ACTFLとは

ACTFL(アクトフル)は、The American Council on the Teaching of Foreign Languages(全米外国語教育協会)の略称、OPIは、”oral proficiency interview”(口頭能力を測定するためのインタビュー)の頭文字である。

ACTFLは1967年、語学指導法に関する研究を目的として、100年以上の歴史を持つ“the Modern Language Association”(MLA)によって設立された。現在ACTFLは、すべての教育機関における、すべての外国語を対象とした、米国で唯一の総合的な語学教育研究機関であり、会員数は約1万人、扱っている言語数は、第二言語・外国語としての英語、日本語、アラビア語、中国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ロシア語等30を超えている。

  主な活動内容は、外国語教育の推進、熟達を目標とした指導法の普及、口頭能力試験の実施などであり、そのために数多くの研究会や研修会を開催し、機関誌や専門書を出版している。

 OPIに関する具体的業務としては、試験方法および評価基準の確立や見直し、テスターを養成するためのワークショップの開催、参加者の資格取得の判定や手続き、政府機関・会社・個人等からの試験の依頼の受け付けやテスターへの連絡などが挙げられる。大手の依頼者には、アメリカ大使館、CIA(中央情報局)、NASA(航空宇宙局)、AT&T(米国最大の電信電話会社)等が含まれている。

 語学教育に関心があり年会費を納めれば、誰でもACTFLの会員になることができる。ただし、OPIテスターになるには、所定の課題を提出し所定の成績を修めなければならない。 

※ACTFL本部の連絡先
6 Executive Plaza,Yonkers, NY 10701
TEL:914.963.8830 FAX:914.963.1275
https://www.actfl.org


1)テスターになるには

ACTFL-OPIテスターになるための第一歩は、試験官養成ワークショップに参加し、理論を学んで実技訓練を受けることからスタートする。このワークショップは、ACTFLの本部がある米国ではもちろんのこと、日本でも開催されている。日本で初めてのワークショップは英語の能力を測定するためのものであったが、1990年からは日本語の方も始まった。日本におけるACTFLの活動はアルクを拠点としている。

1-1)テスター養成ワークショップ

 日本での日本語OPIワークショップは、年に2回(原則として夏と冬)行われ、通例4日間連続で、毎日、朝から夕方までかかる。なお、韓国と台湾でも開催されており、現地在住の日本語教師たちが参加している。

 ワークショップでは、まず熟達度の測定に関する理論の講義、OPI試験の構成・手順の説明、評価基準の解説などがある。教科書として『ACTFL-OPIテスター養成用マニュアル』(原題:ACTFL Oral Proficiency Interview Tester Training Manual 以下、略して『マニュアル』)が用いられる。

 理論を学習しトレーナーによる実施例を見た後、訓練に入る。参加者一人一人がみんなの前で実際に学習者(受験者/被験者)にOPI試験をし、終了後に受験者の口頭能力レベルを判定し発表する。トレーナーやほかの参加者たちは、試験のやり方や判定について質問したりコメントを述べたりして、意見交換を行う。4日間出席した参加者には、ワークショップ修了証書が発行される。

1-2)ライセンス取得について

 正式のテスターとして認定を受けるための課題は、ワークショップが終わってから提出する。

 まずワークショップ終了後数ヶ月以内に「練習用の課題」を郵送する。課題は、実際にOPIテストをしてカセットテープに録音し、その学習者のレベルを判定するというものである。提出するのは、全部で12人分であるが、それは単に計12人にOPIテストをするということではない。初・中・上・超級に当てはまる例を、それぞれ指定された人数分選んで提出することになっているので、実際には相当の数の学習者に試験をしなければならない。トレーナーからは試験のやり方と判定についてコメントが送られてくる。

 次に、本番の「テスター認定用」の課題がある。これも期限が決まっていて、遅れた場合は原則としてその時点で失格になってしまう。課題についての規定は「練習用」とほぼ同じであるが、これはテスターとしての資格試験であり、合格した人には、ACTFL本部から認定書(ライセンス)が送られて来る。

 審査対象となるのは、「抽出方法・インタビューの構成・判定の信頼性」の3項目である。前の二つは、テスト時におけるテスターとしての技能に関するもので(説明は「1-3」「2-2」参照)、三つ目では受験者のレベルを正しく判定できたかどうかが問われる。それぞれ3点で計9点、合格するにはそのうち8点以上が必要となる。ただ、判定の信頼性に関しては、さらに細かい規則がある。

1-3)注意すべき点

 テスターとして試験実施時に要求される主な技能は「抽出法」と「インタビューの構成」である。「抽出法」では、受験者の口頭能力を判定する上で必要なデータを適切に引き出しているかが問われ、主にテスターの話し方や態度が評価される。例えば、質問の出し方の速度が適切か、特定の話題に偏っていないか、受験者の発話に対して中立的な立場を保っているか、話題を急に変えて会話の流れを不自然なものにしていないか、ヒントを与えていないか、馴れ馴れしいあるいは威嚇的または神経質な口調になっていないか、などである。「インタビューの構成」では、OPIの全体構成と「導入・レベルチェック・突き上げ・終結」の各部分が注目される。すなわち、導入部・終結部の長さや内容は適切か、レベルチェックと突き上げを交互に行っているか、ロールプレイの場面や状況の設定は適切か、各話題における時間配分は適切か、などである。

1-4)更新手続き

 テスター資格の有効期限は4年間である。更新のための課題は2種類あり、一つは、過去1年以内に自分で行ったOPIテストの録音テープと判定結果の提出、もう一つは本部から送られてくるテープを判定するだけの課題である。提出するテープの本数は、更新前の1年間に何回くらい正式のOPIテスト(2-1参照)を担当したかで変わってくる。


2)ACTFL-OPIテストについて

2-1)受験申込み

 正式のOPIテストの場合、受験希望者は、米国ではACTFL本部に申し込むが、日本ではアルクまたは日本語OPI研究会に申し込むこともできる。いずれの場合でも、試験および判定後にACTFLから学習者(受験者)のレベルを明記した証明書が発行される。一方、ACTFLを通さずにテストを行った場合は、テスターが個人的な証明を出すことになる。

2-2)試験の手順

 テストは、テスター一人と受験者一人で進められ、初めから終わりまでテープ録音される。所要時間は、初級者の場合は多少短くなるが、通例30分程度である。

 試験時においては、テスターは二つの役割を果たす。一つは、できるだけ自然な形で会話を進めるための「インタビューアー」としての役割、もう一つは、絶えずレベルを測定するという「判定者」としての役割である。

OPIテストの全体の流れは、導入(warm up)、レベルチェック(level checks)、突き上げ(probes)、終結(wind down)という四つの部分から構成されている。ただし、この流れは直線的なものではなく、レベルチェックと突き上げは必要に応じて数度繰り返される。これは、受験者が能力を最大限に発揮できるようにするための配慮であり、同時に、レベル測定の確実性を高めるための方策である。

 構成に関してもう一つ大切なポイントがある。それは、レベルチェックと突き上げのときに「対話モード」と「タスクモード」の両方を組み込んでいくという点である。前者では、現実的な質問に対してどのように答えるか、またどのような話題に関してどの程度の内容のことが述べられるかを調べ、後者では、ロールプレイなどで異なる場面や状況を設定し、その中でどの程度対応できるかを探る。これら二つのモードを用いることによって、受験者の話す技能を多角的に観察することができる。

導入部レベルチェック
(反復過程→) 
突き上げ
(反復過程←) 
終結部
心理面被験者を落ち着かせる。被験者に何ができるかを示す。被験者に何ができないかを示す。一番正確に機能できるレベルに戻し、被験者に達成感を与える。
言語面



 
被験者に目標言語に慣れさせ、目標言語へ移行させる。この時、試験官は被験者の興味・経験についてのデータベースを構築する。


被験者が十分、楽にかつ正確に、流暢にこなせる言語機能と内容の領域を特定する。被験者が言語的挫折を起こす言語的機能と内容の領域を特定する。被験者のできる機能が明らかになり、インタビューが終了することを被験者にわからせる。
評価面被験者が言語能力のどのレベルであるか最初の見当をつける。
被験者が維持できる最高のレベルを見つける(下限の決定)。
運用能力がこれ以上、維持できないというレベルを見つける(上限の決定)。
「OPIの段階と3つの側面」(『ACTFL-OPI試験官養成マニュアル』〔1999年改訂版〕より)

2-3)レベル判定

テスターがテスト中に行なっているレベル判定は有効なデータ(すなわち受験者の言語)を引き出すために行うもので、最終的な判定はテスト後に改めてテープを聞きなおしてから決める。その後、テスターは録音テープと判定結果をACTFLに提出する。テープはさらに別のテスターに送られ、改めてレベル判定が行なわれる。万一、この第二判定者の出した結果と試験を担当したテスターの判定が異なった場合には、さらに第三のテスターに送られることになっている。正式のACTFL-OPIテストの場合は、このようにして判定の確認が繰り返されてから、レベル証明書が発行される。

 評価基準については改めて来月号で解説される予定なので、今回は全体を知る上で必要な要点だけにとどめる。レベルは、初級・中級・上級・超級の四つに大別されている。上級を超えたレベルすなわち「超級」を除くほかのレベルは、さらに「上・中・下」の三つのサブレベルに分けられており、超級を入れて全部で10の級がある。(注:以前は、初級と中級はそれぞれ上・中・下の三つ、上級は二つのサブレベルに分かれていたが、1999年の改定からは上級も三つに細分化された)。

 ACTFL-OPIは全体評価法を用い、学習者のさまざまな能力を総合的かつ同時に判断していくことを旨としている。しかしながら、主観的な判断を排除し、評価をより正確にするために、(1)機能/総合的なタスク遂行能力、(2)社会的場面/話題領域、(3)テキスト/談話の型、正確さ/明確さという四つのカテゴリーの中でもさらに詳しく採点していくことになっている。

 レベル判定における最重要点は、例えば「上級」者として認めるには、受験者が一貫してかつ安定して上級レベルの基準を満たしていなければならないという点である。上級レベルのこともできるが、失敗することもあるという場合は、「中級」と判断される。そして、中級の力を維持しつつ、上級のことがどの程度できたかによって、中級内での「上・中・下」のサブレベルの判定をつけるのである。

ACTFL判定尺度

おわりに

OPIテスターとしての感想をひと言で言うと、「口頭能力試験は難しい」につきる。理屈ではよく分かっていても、実際にテストをすると、なかなか思うとおりに運ばない。OPIテストでは、学習者だけでなく試験をするほうも技能を試されているのである。

 資格を取るには、技術面のほかに現実的な難しさもある。その筆頭が人(被験者)探しである。OPIテストは、自分が教えた学習者や知り合いの非母語話者にはしないほうがよい、しても失敗することが多い、と言われている。私的な感情が入ってしまうからであろう。しかも各レベルで指定された人数のサンプルを集めなければならない。何十人にテストしても、欲しいレベルが見つからないこともある。教師として勤務しながら、テストをするために出かける時間を作るのが無理な場合も少なくない。

 しかし、正式のテスターになるかならないかは別として、テスター養成ワークショップで得た知識は、口頭能力という実態の不明確な怪物に挑戦するための手段と勇気を与えてくれたような気がする。また、課題としてのOPIテストは、教師の自立学習として位置づけることができる。OPI研究会のメンバーは、日本語の習得で四苦八苦している学習者のことを頭に描いては、自分たち自身を叱咤激励して、OPIの研究に挑んでいる。

■日本語OPI研究会について 日本語OPI研究会は、「会員のOPI技術の維持・向上、及びOPIの普及」などを目的として1992年に発足した。会員になるには、入会時において日本語ACTFL-OPIテスターとしての資格を取得していなければならない(現在はテスターワークショップを受けていれば入会できる)。定例会は年に4回で、会運営のための討議、ACTFL-OPIに関する情報の伝達、会員による研究発表等が行われる。また、アドバイザー(牧野成一先生)やそのほかのワークショップのトレーナーを囲んで、基準や判定方法などについて話し合う。研究会が所属する会員の中からテスターを派遣した団体には、国際交流基金日本語国際センター、国際協力事業団(JICA)沖縄支部などがある。また、研究会にはいくつかの部会あるいはプロジェクト・チームがあり、今までに『マニュアル』の翻訳、ロールプレイ・カードの作成、OPI関連の文献の要約、OPIテストにおける学習者の言語の分析および論文の執筆などをしてきた。

 ※本記事が「月刊日本語」1999年4月号に掲載された紙面では、『ACTFL-OPI試験官養成用マニュアル』〔1989〕より図表が用いられているが、その後、同マニュアルが改訂されているため、ここには『ACTFL-OPI試験官養成マニュアル』〔1999年改訂版〕より図表を転載した。