OPIを授業に生かす 第4回

<解説・理論編 4>ロールプレイの方法 (1999年7月号)

増田 眞佐子

 OPI テストでは、受験者は二つのモードでの発話を要求されます。一つは、前回取り上げた「対話モード」であるインタビューです。もう一つは、ある特定の場面で、指定された役割を演じながら会話をつくりあげてげていくもので、「タスクモード」または「ロールプレイ」といいます。今回はこの「ロールプレイ」について解説します。

 

1)ロールプレイの目的

●なぜ ロールプレイをするか

 OPIテストは、「導入・レベルチェック・突き上げ・終結」の4段階で構成される。対話モードでレベルチェックと突き上げを繰り返すうちに、テスターには受験者のレベルがかなり明確につかめてくる。しかし、より実生活に近づけた場面を与えられたとき、言語運用をどのように行い、タスク遂行能力がどのくらいあるか、という部分は、まだ見えていない。ロールプレイという形式は、バラエティーに富んだ場面や状況を展開することができ、受験者のコミュニケーション能力をさらに確かめることができる。

 ACTFL-OPI評価基準の4本柱の一つ、「正確さ」の中に、社会言語学的能力と語用論的能力という項目がある。社会言語学的能力とは主に待遇表現のことであり、常体(インフォーマル)と敬体(フォーマル)の使い分け、敬語の使用、呼称の正しい使い方などの能力を指す。語用論的能力とは、会話をうまく操り、コミュニケーションを円滑にするストラテジーのことで、相づちや言い換えなどの使用も含まれる。これらの能力も、 ロールプレイという形式の中で、より顕著に現れる。従って、対話モードで得られたサンプルの追加材料として、ロールプレイは新たな証拠を提供してくれる。インタビュー中に受験者のサブレベルが「-下」「-中」を示しているなら、同じレベルのロールプレイはレベルチェックとなり、「-上」を示しているなら、一つ上のレベルのロールプレイは突き上げとなる。ただし、「初級―下」「初級―中」には言語機能がないとされているので、ロールプレイは行わない。

2)ロールプレイの手順

●いつロールプレイをするか

 対話モードを進めるうちに、テスターは受験者のレベルに確信が持てるようになる。そこで、暫定的判定を行い、ロールプレイに移る。普通、この時期をテスト全体の3分の2あたりに設定する。終盤にロールプレイを行うことで、既に抽出されたサンプルと重複しない、意味のあるタスクを選ぶことができる。従って、テスターは、 インタビューの間に、どのロールプレイが効果的であるか、あらかじめ見当をつけておかなければならない。

●どのように始め、どのように終えるか

 いよいよ ロールプレイを開始するとき、テスターは「これからちょっと今までと違うことをします。 ロールプレイをやりましょう」などと言って、形式が変わることを伝える。ロールプレイの意味がよくわからない受験者には「ちょっとお芝居のようなことです」とか「だれか別の人になってもらいます」などと言って、何をするのかよく説明する。そして、通常は既製の ロールカード(注1)を受験者に渡して読んでもらう。ロールプレイの内容は受験者の母語で提示されるのが前提であるが、母語によってはできないこともある(注2)。この場合は、学習対象言語(ここでは日本語)を使って、できるだけ一般化した表現で内容を説明する。また、後で第2テスターがテープ判定をするときに(注3)ロールプレイの内容を知るためにも、テスターは音声で内容を説明しておくことが必要である。

 次に、受験者が自分の役割を理解したかどうかの確認のため、テスターは「私はデパートの店員です。あなたはお客さんになってください」のようにお互いのロール(役)を伝える。ロールプレイの進行は、最初の台詞をテスターのほうから言って、モードが変わったことをはっきり示す。テスターがデパートの店員なら「いらっしゃいませ。何かお探しですか」と言ったり、電話での会話なら「もしもし、こちらは田中です」などと言って ロールプレイが始まったことを示す。それに続く会話からは受験者に任せ、テスターが誘導的な発話をしないようにする。そして、タスクが完成するか、もうこれ以上は続ける必要がないと判断したら「これでロールプレイを終わります。どうもお疲れさまでした」などと言って、カードを返してもらう。カードを返してもらうことで「タスクモード」が終わり、再び「対話モード」に戻ることが受験者にも明らかになる。

3)ロールプレイの選び方

●どんな ロールプレイをするか

 ロールプレイの性格を決定づける要素は、(1)どんなタスクを持っているか(言語機能)、(2)何について話すか(話題)、(3)どこで会話するか(場面設定)、(4)誰と話すか(待遇関係)、(5)どんな雰囲気で話すか(丁寧度)などである。ロールカードには、これらの要素が具体的な内容に置き換えられている。テスターは、どのロールカードを選べば調べたい側面が明確に抽出できるのかを、十分、知っておく必要がある。また、既製のロールカードでは不十分な場合は自分でカードを作り、受験者の年齢や背景、興味に合ったタスクを提示してもよい。適切なロールカードの選択が、OPIテストの判定を左右するといってもよい。

 では、実際にレベルごとに ロールプレイの内容と評価基準の関係を見てみよう.。

●超級の ロールプレイ

 超級では、不慣れな状況でもその場に合ったスピーチレベルを選択し、学習言語の文化に即した自然な表現を用いて広範囲なタスクの処理ができなければならない。

 例えば「論文を提出するために教授の家を訪問しようとしたが、道がわからなくなり、近所の子どもに教授の家まで連れていってもらう」場面だとしよう。この場合、受験者は、子どもの役を演じるテスターに対して敬体で依頼したりお礼を言ったりすることは不自然であるから、常体の使用が求められる。しかし、教授の家では当然、敬語の使用が必要となる。また、玄関に応対に出た教授の家族との、社会通念上の挨拶表現も必要だろう。このように、超級では、スピーチレベルの使い分けや社会的・文化的な言語運用能力を試すことになる。

 また、「町の経済発展のため海岸の埋め立てを主張する市長と環境保護運動をする市民の討論会」という場面では、市長と市民という対立した立場で意見を主張することになる。この場合は、仮説や意見の主張や反論などの機能が、フォーマルな場面でも維持できるかの確認ともなる。ここでは、対話モードのように受験者本人の意見を聞くのではなく、あくまで ロールプレイとして意見が述べられるような役割を与えるべきである。

●上級の ロールプレイ

 上級では、日常的な場面や、学校や職場でよくある状況で、物事が規則どおりに運ばず、予期せぬ事態が起きたとき、それに対処できなければならない。

 例えば、「返品お断りという表示のある店で靴を買ったが、家に持ち帰ってよく見ると傷があった。商品を返して、代金も全額取り戻したい。店の人と交渉しなさい」という ロールプレイでは、(1)靴を買ったときの状況の説明、(2)返品の理由、(3)返金の依頼、(4)渋る店の人の説得、などという言語機能の処理が必要である。また、時制やアスペクトの使用状況、叙述や描写の能力なども、特定の場面の中で調べることができる。

●中級の ロールプレイ

 中級では、日常的な場面で基本的なコミュニケーションタスクを処理するために、質問したり答えたりして会話を始め、続け、終わらせることができなければならない。ここでは、学習言語の社会でサバイバルできることを確かめる。この例として「新聞記者になって、学校を訪れたノーベル賞作家にインタビューする」「映画に誘って、待ち合わせの時間や場所を取り決める」「電車の中に忘れ物をしたので、駅に問い合わせ、受け取りに行く」などがある。

 「質問ができる」という中級の機能は、対話モードでは、受験者が暗記した表現をそのまま使ったり、ときにはテスターの質問の仕方をまねたりして、自発的であるかどうかが見極められないことがある。そのような場合、ロールプレイで個別の実際的な場面をつくり、その場に合った創造的な質問ができるかどうかを調べることができる。

4) ロールプレイの発展

● ロールプレイは何回するか

 時間的な制約のあるOPIテストでは、適切な ロールプレイを1回行うのが効率的である。しかし、対話モードとタスクモードのパフォーマンスに差があるときは、もう一つ ロールプレイをしてみなければならない。日本語の場合は、ある場面に必要な機能と言語表現が特定される傾向が強いので、たまたま受験者に経験があったり、得意な場面や状況であれば、機能一般は習得していなくても、タスクをうまく処理できてしまうことがある。正しい判定のためには、新たに場面や話題などを変えて行ってみることも必要だろう。

 また、 確実な判定のために、ロールプレイをレベルチェックとして一つ、突き上げとして一つ使うとすると、最低2回は行うことになる。例えば、中級のサバイバル的な ロールプレイが容易にこなせた場合は、上級の機能を持つ、少し込み入った困難な状況のものを与えてみなければならない。

●ロールプレイをどう展開させるか

 OPIテストは自然な会話でのテストであるから、話題を頻繁に変えて尋問調になることは避けなければならない。 ロールプレイにおいても同様で、次々に異なったロールカードを出されることは、受験者にとって負担になるであろう。このような場合、新たにロールカードを提示せず、今、行われている ロールプレイを展開させて難度を変える方法が考えられる。ここでは、一つの ロールプレイから、螺旋式に異なった機能・タスクの ロールプレイをつくりだす方法を見てみよう。

  例えば、「予約した飛行機に乗り遅れたので、次の便に乗れるように飛行場で交渉する」という内容のロールプレイを選んだとしよう。このタスクでは、受験者は予約係の人に次の便の出発時間を聞いたり、キャンセル待ちの状況を質問したりすることになる。中級を示す受験者が、このタスクを何とか処理できたとしよう。その場合は、さらにハードルを高くしたタスクを追加する。今度はロールカードには書かれていないので、テスターが口頭で説明する。「飛行場から上司に電話をかけて、大切な会議に間に合わないことを謝ってください。そして、善後策(どうするか)を申し出てください」という場面に切り替える。ここでは、受験者は上司との会話で敬語を使わなければならないし、謝りや事情説明の機能もあり、上級のタスクになる。受験者の役割は変えず、その場面で起こりうる別の状況をつくりだすことで、自然に新しい機能・タスクに結び付けることができる。

5) ロールプレイの評価

●どのように判定するか

 ACTFL-OPIでは、伝達能力をグローバルな観点から評価するものであるから、 ロールプレイにおいても評価基準の4本柱がお互いに絡み合って評価されることになる。もちろん、タスクの達成は最重要評価であるが、たとえロールプレイでタスクの処理ができたとしても、言語機能の表出が不十分であったり言語形式が不適切であったりしたら、4本柱のすべての基準を満たしているとはいえない。 ロールプレイのタスクの成否を決めるのは、パフォーマンスの質の高さということになるだろう。

 では、「先生を映画に誘い、時間や場所の打ち合せをする」という中級のロールプレイでの二つの発話例から、タスクの成否を見てみよう。

■例1(Rはテスター、Eは受験者を表す)R: もしもし、増田ですが。
E: もしもし、映画館・・・。
R: どなたですか。
E: うん?
R: だれですか。
E: あー、アレクスです。映画館、行きましょう。
R: いいですね。
E: 8時半・・・、駅の前に・・・。映画のあとに、晩ごはん食べましょう。
■例2R: もしもし、増田ですが。
E: もしもし、リズです。
R: あー、リズさん、こんにちは。
E: こんにちは、お元気ですか。
R: はい、元気ですよ。
E: 映画館に行きたいですか。
R: はい、いいですね。
E: あした、新宿で3時です。いいですか。
(中略)
E: じゃ、またあした。

例1では、電話での会話の始め方や終わり方を習得しておらず、文レベルでの発話もできていない。同じ形の2度にわたる誘いの表現は、習い覚えた形を使っただけという可能性がある。そのため、このタスクでは、中級のレベルに達していないと判定される。

 例2では、テスターの様子を尋ねたりしながら用件を切り出し、誘い、終結させている。誘いの表現は、自己中心型ではあるが、ここではタスクは成功したとみなしてよいだろう。

6) ロールプレイでの留意点

 事前の説明があっても、受験者によっては、演じることを恥ずかしがったり、子どもじみていると考えたりして、ロールプレイを拒否する場合がある。このような場合は、口頭で説明するなどして、受験者の子どもの頃や過去の経験を話すような気楽な雰囲気をつくり、ロールプレイであることを目立たせないようにすることも必要になる。

〔ますだ まさこ〕―中央大学国際交流センター

 

(注1) ACTFLにより作成されたもので、超級用が22枚(黄色)で1セット、上級用20枚(オレンジ)と中級用24枚(緑)で1セットになっている。
(注2)アルクから、 ACTFL作成の英語版のほか、韓国語版、中国語版が販売されている。
(注3)正式なOPIテストでは、インタビューを第1テスターが行い、その録音テープを第2テスターが聞いて判定が出される。