<解説・理論編 3> インタビューの方法 (1999年6月号)
深谷 久美子
ACTFL-OPIには、受験者の会話力を判定するために、いくつかの基準が設けられています。テスターはその基準に沿って、判定可能な発話を受験者から引き出すようにインタビューを進めなくてはなりません。今月はインタビューの中の対話モードに焦点をあてて、話題の選び方やインタビューの流れなどについて解説します。 |
はじめに
今回は、受験者から“どうやって発話を引き出すか”、そのインタビューについてである。このインタビューの目的は、受験者の口頭能力の下限と上限、つまり、何ができて、何ができないかの証拠を示すことである。テスターは当然、頭の中にACTFLの評価基準をしっかり入れ、判定の材料となるデータを収集するために、さまざまな質問をしていく。
ACTFL-OPIでは、インタビューに「標準化された手順」がある。この決まった手順を踏んでいなければ、それは判定可能なインタビューと認められない。というのは、このインタビューは、口頭能力をACTFLの評価基準に沿って判定するという明確な目的を意識した手法になっていて、そこが普通の会話やインタビュー、討論などと異なるところであるからだ。
本誌4月号にもあるように、「導入→レベルチェック→突き上げ→終局」という手順でインタビューは進み、テスターはインタビューの最中にレベルチェックをしながら、質問を変えていく。このレベルチェックと突き上げを何度か繰り返して、質問内容を高度にしたり下げたりして話を進め、そして最後は友好的な雰囲気でインタビューが終わるようにもっていく。「試験官は、一度だけしか耳にしなかったことは信じてはいけない」ことになっており、一つの機能、例えば、ある物の描写を非常にうまくできたり全くできなかったりした場合は、また別の話題でその機能を試さなければならない。
それでは、その手順を追っていこう。
1)全体の流れ
導入は受験者にとって無理のないレベルから始まる。当然、あいさつなどの決まり文句や答えやすい個人的な質問で、学習者に学習したことを思い出させる気楽な対話となる。しかしここは、インタビューを、そのあと、上手に発展させられるかどうかの話題を探る非常に大切な機会である。
レベルチェックは、無理なく安定的に話せるレベル、つまり言語的下限を確かめ、受験者の発話の代表例を集めることであるので、いくつかの異なる話題を質問して、同じ言語的機能を調べることになる。
突き上げとは、レベルチェックで一貫して安定的に話せるレベルがわかると、それより難易度を上げて質問したり、より抽象度が増した話題を出したりして、受験者の言語的限界がどこにあるかを探る作業である。突き上げをすることにより、受験者がどこまでその能力を発揮できるかを確かめ、言語的上限を確認するのである。
レベルチェックと突き上げは別の段階となっているが、実際は、経験を積んだテスターはうまくそれらを取り混ぜ、難易を上げたり下げたりしながら、受験者の口頭能力の上限と下限を探っていく。時間配分は特に定まってはいないが、サブレベル「-下」と思われる受験者にはしベルチェックを多く、「-上」と思われる受験者にはその境界をしっかり見極めるために、突き上げに多くの時間を割くことになる。特に上級レベルでは、要求されている機能が多くなるため、「中級-上」と思われる受験者には時間をとって行わなければならない。この突き上げで、受験者の限界、言語的挫折が現れれば、課題のレベルを下げて、再びレベルチェックを行う。
終結部では会話モードに戻り、楽しい経験をしたという気持ちで終わらせる。ここに来るまでに、受験者は、言えないことのもどかしさや悔しさ、焦燥感などを味わっているはずであるから、ここでは、インタビュー終了後の予定を聞いたりして、答えられない質問もあったが、よく話せた、という印象をもって終わらせるようにする。
2)話題の選び方
インタビューに要する時間は、30分が限度である。特に口頭能力が高いと判定されるレベルほど、判定基準にいろいろな項目が含まれるので、話題領域も当然広がることになり、インタビュー時間も長くなる。初級レベルと思われる受験者は10分程度で終わるが、中級レベルでは15分以上かかることもある。上級・超級、およびこれらの主要境界にいると思われる受験者の場合、30分近くになることがあるが、30分を越えてはならない。
インタビューは終始、テスターが質問する形で進むが、初級から中級レベルと思われる受験者には、テスターに質問させるという形もとる。これは、人からの質問に答えるだけでなく、自分から質問できるかどうかを確かめるためである。その際、テスターに意見を求めるような質問だと、テスターも答えるのに時間を要することになるので、「今まで私はたくさん〇〇さんに聞きました。今度は〇〇さんが私のことを2つ3つ聞いてください」と、テスターの個人的なことを質問させる。そして、明らかに初級と思われる受験者を除いて、インタビューがだいたい3分の2ぐらい終わったところで、ロールプレイを1回行う。言語によっては2、3回のロールプレイが必要になることもあるが、日本語の場合、通常2回行うことが多い。このロールプレイについては次号で詳述する予定である。
次に、その質問内容の代表例を述べる。これらはあくまで例として挙げた話題で、実際は、受験者それぞれの答えが異なるように、当然、答えに応じた次の質問も異なってくる。極端に言えば、すべてのインタビューは、受験者一人ひとり、話題や内容が異なることになる。これも、ACTFL-OPIの特徴である。
初級の話題:あいさつ・天気・時間・月日・曜日の言い方・誕生日・色・部屋にあるものの名前・着ているもの など
中級の話題:自分の略歴・家族について・食べ物・好きなもの・週末に何をしたか・毎日の生活について・最近のできごと など
上級の話題:比較(自国と日本の学校/デパートとスーパー/自国の生活と外国の生活)・描写(アルバイトの内容/日本の印象/最近見た映画、読んだ小説など)・説明(スポーツについて/テレビというもの/自国のめずらしいものやこと)
超級の話題:教育について・環境問題・社会問題・経済・防衛・外交・政治・自然保護
3)レベルチェックと突き上げの方法
では、以上のような話題を、どういう質問形態をとって、より高度に展開させ、突き上げを行うか、その例を簡単に見てみよう。
※Rはテスター、Eは受験者を表す。
例1 好きなスポーツからの質問の発展R: 〇〇さんは、スポーツは好きですか。 (――「はい/いいえ」で答えさせる質問) E: はい、好きです。 R: どんなスポーツが好きですか。 (――「事実や情報」を求める質問) E: サッカーです。 R: どうしてサッカーが好きですか。 (――自由な回答を求める質問) E: 面白いからです。 R: どんなところが面白いんですか。 E: みんなで一緒にできて、特にゴールできたときです。 R: 私はサッカーはよくわからないんですが、どんなスポーツか、ちょっと説明してくれますか。 (――上級レベルへの突き上げ) E: 1チーム11人でボールを使ってします。 R: あのう、ポールをどう使うか、そこのところをもう少し詳しく話してくれませんか。 |
これらの質問を無理なくこなせれば、さらに難度を上げる。
R: 日本でもJリーグができてサッカーが盛んになってきたんですが、大学や企業などで、スポーツ、例えばサッ力ーや野球などの上手な人が、入学試験がなかったり、奨学金がもらえたり、推薦で入れたりすることがありますが、スポーツが得意じゃない人からすれば不公平だと思うんですが、〇〇さんはどう思いますか。 (――超級レベルへの突き上げ) E: 別に私はいいと思いますが、……(以下省略)。 R: でも、みんな一生懸命勉強して入学試験を受けるんですよ。 (――反論してみせる) E: でも、勉強ができる人はペーパーテストで、スポーツができる人はその実績で大学に入るのは、いいんじゃないですか。 (――受験者が自分の意見の裏付けができるかどうかを見る) |
例2 出身地の話題からの発展(答えは省略)R: 中国のどちらから来ましたか。 R: そこはどんなところですか。 R: そこの生活と今の生活と違いますか。どんなところが違いますか。 R: じゃ、そこに大きな工場ができるとしたら、どうですか。反対ですか、賛成ですか。 R: では、例えば〇〇さんがそこの市長になったとして、工場に反対の人たちをどう説得しますか。 (――仮定のことについて答えさせる質問) R: 工場ができれば、当然、公害などの問題がでてくるかもしれませんが、環境問題についてはどういう意見をお持ちですか。 R: でも、工場ができれば、大勢の人に仕事の機会ができるわけですから、いいと思うんですが。 |
など、一つの同じ話題から発展させて、中級程度の質問から上級の課題である、説明、描写、叙述、比較などの質問にいき、そして最後は、環境問題やさまざまな社会的不公平、経済問題についての抽象論での裏付けのある意見を述べる、ということへ発展させていく。もちろん、その過程で受験者が言語的挫折をすれば、一度レベルを落とすなりして、別の観点から、あるいは別の話題からもう一度同じような機能を試みるなどして、インタビューを進める。
つまり、らせん階段を上がるように質問を繰り返すことになる。下から見れば同じ話題でも、横から見れぱ、確実に機能のレベルは上がっている、あるいは同じ話題で具体論から抽象論へもっていく、というインタビューである。
おわりに
それでは、最後に、インタビューにおいてどんなことに留意すればいいのだろうか。
インタビューはあくまで口頭能力を評価するためにするのであるから、インタビューの最中に教師ぐせを出して、訂正したり、文を続けて完成させたり、言葉を教えたり、といったようなことは避けなければならない。さらに、受験者の答えをせかしたり、黙ってしまったことをわからないからだと性急に判断して次に移る、といったことは、受験者の能力を不当に低く判断することにつながる。テスターは受験者の様子を見ながら、態度や言葉を合わせる必要があるが、おおげさな話し方や必要以上にゆっくり話すことは、自然な会話でというACTFLの考え方に反する。さらに、テスターは矢継ぎ早に質問するだけではなく、受験者の話に関心を持っているという態度を示すことが、受験者の発話をスムーズにさせることになる。
このインタビューは簡単なようで、慣れたテスターでもなかなか完壁には行えない。つい、受験者に主導権を握られて、同じような機能・レベル・種類のサンプルばかりとか、個人的な話や“おはこ”の話題に終始してしまう、受験者の意見にテスターのほうがむきになって反論する、受験者の発話が事実かどうかに言及する、など、十分に気をつけないと、判定が不可能な発話データの収集になってしまうこともある。
以上、インタビューについての概略を述べたが、その目的は、口頭能力の評価に必要なデータをインタビューという手段で得ることである。それゆえ、ACTFLの評価基準を常に念頭におくのはもちろん、判定に有効なデータになるような引き出し方、そのテクニックがテスターに求められる。インタビューそのものは、経験を重ねればコツやタイミングといったものがわかってくるので、“習うより慣れろ”の精神で、まずひたすら数をこなすことである。また、トレーナーのインタビューやほかのテスターの模範的なインタビューテープを聞き返すということも、いい勉強になる。
〔ふかや くみこ〕-成蹊大学