OPIを授業に生かす 第14回

<調査編 1> 受講者から見たOPIワークショップのメリット・デメリット  (2000年5月号)

米田 由喜代

 今月から4回にわたって、OPIの調査編を紹介していきます。第1回の今回は、OPIワークショップを受講した人たちにアンケートを実施し、その回答から得られた声をもとに、OPIワークショップのメリット/デメリットについて考えていきます。

 

 米国で始まったACTFL-OPIワークショップは、日本国内でも1990年の第1回から、ほぼ年に2回現在まで継続的に開かれている。はじめは東京のみであった開催地も、京都、札幌、さらに韓国のソウル、台湾の高雄でも開かれるようになり、受講者総数も99年末で360人を数えている。資格取得者も表1(アルク集計)のように増えている。

表1ーテスター資格取得者

 累計受講者数資格取得者
1995年5月192人81人
1998年7月320人145人以上

 そこで今回は、実際にACTFL-OPIのワークショップを受講した人たちがOPIをどのように見ているかを、受講者へのアンケートの結果から紹介してみたい。1995年9月と99年12月に行った、2度のアンケートで寄せられたコメントを中心に、現場で教育に携わっている日本語教師としての立場からの筆者の解説も加えている。

 アンケートの回答数は表2の通りである。

表2ーアンケートの回答者数

 略号調査時期回答者数送付数
前回の調査(前)1995年66人145人
今回の調査(今)1999年68人330人

 ただ、アンケート回答者の多くは、OPIワークショップ受講は全体的に見て役に立っていると判断しており、本稿はその方々からのコメントを基にしたものであることをお断りしておく。

メリット

1.日本語教育を進める上で

●会話力のテストとして使える(具体例は月刊『日本語』99年9月号~12月号を参照)

 OPIを実際にテストとして使っている人は、前回の調査(以下(前))で67%、今回の調査(以下(今))で75%と多い。所属機関内での形成的評価に使われる場合がほとんどで、コース開始時のクラス編成やレベル判定、コースの途中や終了時の伸びの測定やコース評価のために、高校生から社会人まで、さまざまな対象者に用いられている。半分以上で、個々の事情にあわせてOPIに変更を加えており、特に時間を短縮しているケースがテスト使用例全体の1/3を占めている。

 テストでOPIを使うメリットとして、会話口頭能力が客観的に評価できる、各学習者について強い点/弱い点が把握できる、結果を学習者に具体的に説明できる点が挙げられている。

●会話・口頭能力の捉え方、評価法がわかった

 38人(今)が特にメリットとして記している。中でも、OPIの理論学習と実践を通して、OPIの評価基準をよりどころとして、総合的観点から口頭能力を見る枠組みの中心軸、すなわち「座標軸」が持てたとする人が多かった。この「座標軸」の獲得により、文法のミスが多い、他の人より流暢に話せるなどと、学習者を個々の要素から相対的に評価するのではなく、学習者の能力を総合的に見て、今、座標軸上のどこにあるかで評価し、そのことを学習者に伝え、段階を追って次の目標を設定すること(次項に紹介)も可能になるのである。また、「座標軸」を共通語として、学習者や同僚の教師との間で、会話能力について客観的に話すことや認識の共有もできる。

 学習者の口頭能力や発話を分析的に見られるようになった、学習者との対応に自信が持てた、教師養成時に評価法として説明できるようになったなどのコメントも、この「座標軸」の獲得に基づくものだろう。

●授業目標の設定に使える(具体例は月刊『日本語』99年9月号~12月号を参照)

 教師が授業目標を設定するために使うほか、学習者に評価基準を示して具体的な目標を自分で意識させる、学習者との間や教師間での目標の共有化を図る、などの使い方が挙げられた。

 OPIの特徴は、評価がすぐに目標設定につながる点だろう。インタビューで教師・学習者両者に認識された、少しは対応できたが十分ではなかったために挫折したレベルが、遥か遠い目標ではなく、手の届く目標として設定できるわけである。

●教室活動が広がった(具体例は月刊『日本語』99年9月号~12月号を参照)

 ロールプレイを取り入れた人が圧倒的に多い((前)10人・(今)13人)。ほかに「ひとり話」やインタビューなども行われている。

  このロールプレイは、OPIが重視する、コミュニケーション上のタスクの達成力を上げることを意図して多用されているのであろう。

2.教師としての向上を図る上で

●教師としてのあり方を見つめ直した

 今回の調査で13人が挙げており、とくに目立った点である。ワークショップの受講が、1つの評価法の習得だけに終わらず、教師としてのあり方という根本的な部分にも衝撃を与えていることがうかがえる。その代表が、「教える授業から引き出す授業に変わった」というコメントであろう。

 OPIでは、被験者は初対面の人を原則として、テスターは日本語教師ではない一般の日本人として接しなければならない。また、被験者の沈黙に対して待つことも重要な留意点とされる。つまり、「教師臭さ」を捨てて、対等な立場の大人として被験者に接することが求められているのである。

 教師は教育現場で、ともすれば、学習者のレベルを熟知していると思い込み、学習者が沈黙すると、すぐに反応しがちである。つい、質問をやさしく言い直したり、言葉を教えたり、文末を補ったり、言い換えたりする。変な日本語でも想像力を働かせて意図をくみ取ってしまう。このような教師の対応は、学習者の周りに思いこみに基づいた枠を張りめぐらして、学習者が自力で上の課題に挑戦する機会を奪い、教室を外の社会から隔離し、教師以外の人とはコミュニケーションできない学習者を生みだすことになりかねない。

 OPIでの、「教師臭さ」を出さずに、初対面の対等な大人として、親切すぎたり傲慢になったりせず、冷静にインタビューし、相手の沈黙に対して黙って待つ姿勢が、被験者がコミュニケーションを達成すべく自分の能力をフルに発揮する機会を保証することになる。実際に、沈黙の後で、被験者が予想外の発話をしたという体験談も、たびたび聞いている。

 このインタビューでの姿勢を教室で応用することで、教師の立場を変えることが可能になる。教師は、学習者が十分対応できるレベルから上に突き上げの質問をし、黙って待ち、その結果を確認し、対応できなかった課題の達成を助ければよい。これによって、授業が、教師が学習者に教えるインプット中心の授業から、学習者から引き出すアウトプット中心の授業へと変わり、教師も、教える立場からサポートする立場へと変われるのである。また、クラス授業の形でも、学習者それぞれを個人として把握し、対応することも可能になる。

 しかし、実際には「教師臭さ」を捨てるのはなかなか難しく、筆者も自分のインタビューのテープを聞いて、何度か冷や汗を流している。

3.研究上で

●研究に利用できる

 OPIやその理論の研究への利用も、増える傾向が見られる。実際に研究に使っているという回答が21人(今)あった。使い方には大きく3つの流れがある。研究対象者のレベル判定の方法として使うもの、発話サンプルを分析対象とするもの、ほかの評価法との関連性を探るものである。紙面の都合上、個々の紹介は別の機会に譲る。

デメリット

●正式のOPIをする機会が少ない

  これは、技術を維持、向上できる機会が少ないという点と、努力や費用が高いのに報われないという2点から、デメリットとして多く(14人(今))指摘されている。日本で正式のOPIを実施する定期的な場をつくりだすことと、資格取得を目指さない人に対して考え方を広めるための機会を設けることが望まれている。

 正式のOPIの機会が少ないことは、更新の大変さにもつながる。今回の回答者中、資格取得から4年という有効期間の満了を迎えた人が23人いたが、そのうち、更新者が11人、それに対して、更新していない人が12人で、期限満了時に更新した率は50%を下回っている。その理由は、テスター資格を使う機会が少ないことと、それにともなう更新時の負担の大きさであった。

表3ー回答者のうちわけ(今回の調査)

●OPIの判定があいまい

 今回の調査で6人(今)が指摘している。次の3つの要因の関与が考えられる。

・テスターの発話サンプルの引き出し技術の不足

 限られた時間内に適切な構成でインタビューをこなして十分な発話サンプルの引き出し、さらに正確な判定を下すという、テスターに求められる技術の高さと、技術維持の難しさから、資格を持ったテスターにも起こる可能性がある。この技術は、4日間のハードなワークショップと、それに続くテスター資格取得のためのインタビューの実践を経て、ようやく身につけられるものである。さらに、テスター資格の更新(99年1月以降に適用)では、年間の正式のOPIの実施回数によって、方法が3trackにわけられ、年間24回以上の正式のOPIをしている人だけが、テープによるチェックも再度のワークショップの参加もなしに更新が可能である。この数字からわかるように、技術維持にもOPIの継続的な実践が不可欠である。しかし、日本国内では正式なOPIの機会は少なく、技術維持や向上のための場も少ない。わずかに、日本語OPI研究会、関西OPI研究会と、その他の不定期に開かれる講演会だけである。

・評価基準の記述のあいまいさ

 評価基準の記述が具体的ではないために、実際の発話サンプルがどの記述にあたるかが明確には判断できず、その結果、判定があいまいになったり、テスター間で判定が異なってしまうことが起こる。これを避けるために、評価基準の記述の具体化が求められる。

・テスターによって、ネイティブの話す日本語の捉え方が違う

 判定のよりどころとなる日本語とはどういうものか、なにを間違いと捉えるかといった日本語観を、各テスターの主観的イメージに頼っているために、日本語観の違いが判定の差として現れる場合がある。ネイティブの話す日本語とは何かを具体的に議論し、明らかにすることも必要である。

●その他

上記以外にも、問題点を挙げた、次のようなコメントが寄せられている。

・米国で汎言語的に作られたACTFL-OPI評価基準が日本語に合わない部分がある。特に文化的な面でそぐわない点がある。(1人(今))

 この問題点も、前に述べたテスターの日本語観によって捉え方が異なるものだろう。ネイティブの話す日本語とはどういうものか、活発な議論が望まれている。

・上級以上の細分化が必要である。(1名(今))

 99年の改訂で上級は3つに分けられているが、今後予想されるレベルの高い日本語習得者の増加に対し、超級の細分化も求めた意見であろう。(注:現在は超級の上に、卓越級が設けられている。)

・OPIが不向きな学習者もいる。

 OPI評価基準は超級として教養ある成人を想定ているが、この想定とは異なる学習者も存在し、どんなに上達してもOPIの超級にはなれず達成感が得られないとのコメントがあった(1人(今))。また、ロールプレイを不自然と感じ、避ける学習者の存在も指摘されている。

 日本語学習者の多様化にともなって、今後はさまざまな形での応用例も増えていくものと推測される。

 以上、アンケートの短いコメントを、筆者なりに解釈しまとめてみた。OPIに関心を持っている方の参考になれば幸せである。

 最後に、忙しい中、記述式の煩雑なアンケートに回答を寄せてくださった皆様に厚く感謝します。解釈の間違いのご指摘、ご意見などがあれば、ぜひお寄せください。

〔よねだ ゆきよ〕―大阪大学留学生センター非常勤講師